1998年に発生した「和歌山カレー毒物混入事件」で、殺人などの罪に問われ死刑が確定している林真須美死刑囚(64)の再審請求について、最高裁判所は11日付で特別抗告を退けました。これにより、林死刑囚の死刑判決が最終的に確定したままとなります。
事件は1998年7月、和歌山市園部で開かれた夏祭りの会場で発生しました。住民が作っていたカレー鍋にヒ素が混入され、食べた男女4人が死亡、67人が重軽傷を負いました。日本社会を震撼させたこの事件は、戦後最悪の無差別毒物事件として記憶されています。
警察は、近隣住民だった林真須美死刑囚を逮捕。捜査の焦点は「ヒ素の一致」でした。自宅から押収されたヒ素と、カレー鍋に混入されたヒ素が化学的に類似していたことが決め手とされました。林死刑囚は一貫して無実を訴えており、「自分はやっていない」と主張し続けています。
しかし、2009年に最高裁が死刑判決を確定。その後も林死刑囚側は「鑑定結果に科学的な疑問がある」として再審請求を行ってきました。和歌山地裁は2021年1月に請求を棄却し、大阪高裁も2025年1月に即時抗告を退けていました。今回、最高裁が特別抗告を棄却したことで、再審の道は閉ざされました。
一方、弁護団は「新たな科学的知見によって再検証すべきだ」と主張しており、今後も再審請求を続ける意向を示しています。林死刑囚は拘置所からの手紙などで、「真実を明らかにしてほしい」「家族に迷惑をかけてしまった」といった心境を綴ってきました。
この事件をめぐっては、当時の報道姿勢も大きな議論を呼びました。逮捕前からワイドショーが連日「カレー事件の女」として報じ、視聴者の印象を強く左右したことが「メディアリンチ」として批判された経緯もあります。司法の判断が最終的に確定した今でも、「本当に林被告が犯人なのか」という疑問の声は根強く残っています。
再審が認められなかったことについて、法曹関係者の間では「証拠の再評価が難しい」「再審制度のハードルの高さが浮き彫りになった」との指摘が相次いでいます。日本の刑事司法における再審制度は、世界的にも厳格であり、死刑確定者の再審が認められるケースは極めて稀です。
事件から27年が経ち、当時小学生だった被害者遺族もすでに中年世代となっています。風化が進む一方で、SNS上では「再審を認めるべきだったのでは?」「冤罪の可能性を消せない」「司法の在り方を問うべき時」といった意見も見られます。
和歌山カレー事件は、日本の刑事裁判制度、そして「冤罪と死刑」をめぐる社会の意識を問い続ける事件として、今もなお重い影を落としています。


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