高市首相「最悪のケースを想定した答弁」──台湾有事発言の真意と、国会で浮き彫りになった“防衛の線引き”

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2025年11月10日、衆議院予算委員会での高市早苗首相の発言が注目を集めています。
先週、台湾有事に関する質問で「武力行使を伴うものであれば存立危機事態になりうる」と述べた高市首相が、この日の質疑で「最悪のケースを想定した答弁だった」と説明しました。

この発言をめぐっては、与野党の間で「日本の防衛線をどこに引くのか」「集団的自衛権の行使をどう位置付けるのか」といった議論が再燃しています。
本稿では、発言の背景と、同日国会で取り上げられた北方領土問題や衆院解散論までを整理し、高市政権の今後を展望します。




■「最悪のケースを想定」──台湾有事答弁の修正ではない

10日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の大串博志議員が高市首相に質問しました。
テーマは「台湾有事における存立危機事態」の定義です。

大串議員は、「台湾有事において武力行使が行われれば存立危機事態になるという踏み込みは、過去の政府答弁を超える。軌道修正をした方がよいのではないか」と指摘。

これに対し、高市首相は次のように答弁しました。

「最悪のケースというものを想定した答弁をいたしました。
いかなる事態が存立危機事態に該当するかは、実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、政府がすべての情報を総合的に判断するものです。
政府の従来の見解に沿ったものでございますので、特に撤回、取り消しをするつもりはございません。」

つまり、首相は「台湾有事=自動的に日本の存立危機」ではなく、「最悪のシナリオを想定しての一般論」と強調。
あくまで従来の政府立場(2015年の安保法制時に確立されたもの)を踏襲しているとの認識を示しました。


■「存立危機事態」とは何か?──安保法制で拡大した防衛概念

ここで改めて、「存立危機事態」という用語の意味を確認しておきましょう。

これは2015年の安保関連法で導入された概念で、「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、それによって日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由・幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合に認定されます。

これが認定されると、日本は集団的自衛権の行使、すなわち「他国が攻撃されている場合でも日本が武力行使できる」状態になります。

この制度は当時も大きな議論を呼び、「憲法9条の範囲を超えるのではないか」として、野党や一部憲法学者が強く反発しました。
そのため、今回の高市首相の発言が「台湾有事」と結びついて報道されたことで、再び国民の間に「日本はどこまで巻き込まれるのか」という懸念が広がったのです。


■高市政権が直面する“防衛と外交のジレンマ”

高市首相はこれまで、防衛力強化を最優先課題の一つに掲げてきました。
首相就任後も「防衛費GDP比2%の維持」「敵基地攻撃能力の整備」など、岸田前政権の方針を踏襲しつつ、より明確な姿勢を打ち出しています。

ただし、台湾情勢をめぐる発言には極めて慎重さが求められます。
中国との関係を悪化させれば、経済や外交の面でリスクが高まるためです。

今回の「最悪のケースを想定」という説明は、
「台湾が攻撃されたからといって即座に自衛権行使に踏み切るわけではない」
という含みを持たせることで、国際社会へのメッセージの“調整弁”と見ることができます。


■北方領土発言への注意──「外交感覚」への懸念も

同日の国会ではもう一つ、閣僚発言が波紋を広げました。
黄川田仁志沖縄・北方担当相が、8日に北方領土を対岸から視察した際に「一番、外国に近いところ」と発言したことです。

立憲民主党の大築議員は、「北方領土を日本の国土ではなく外国と同列に扱っているようだ」「大臣の資質に欠けるのでは」と追及。

これに対し、高市首相は次のように述べました。

「北方領土が我が国固有の領土であることは明白であり、政府としてはその立場に基づいて問題に取り組んでいます。
誤解を招きかねない発言だったため、黄川田大臣には電話で注意をいたしました。」

黄川田氏も「今後とも担当大臣として全力を傾ける」と答弁し、事実上の“口頭注意”で幕を引きました。
しかし、外交・領土問題を扱う担当大臣としての発言としては軽率との見方も広がっています。


■解散風は「まだ早い」? 高市首相、議員定数削減解散を否定的

さらに午後の質疑では、衆議院の解散時期をめぐる質問も飛び出しました。
自民党内では「議員定数削減」を争点とする“改革型解散”の可能性が取り沙汰されていますが、高市首相はこれを明確に否定しました。

「議員定数の議員立法を争点に解散することは、普通、考えにくいのではないか。」

この発言は、年内解散を望む一部の与党議員に冷や水を浴びせた形です。
高市政権は支持率の下落を背景に「年内解散で求心力を回復すべきだ」とする声もありますが、首相自身は慎重な構えを崩していません。


■政権発足から3か月──試される「安保の言葉選び」

高市政権が発足して3か月。
今回の国会審議では、「防衛」「外交」「選挙」という3つのテーマが一度に表面化しました。

特に注目されるのは、高市首相の“言葉選び”です。
安保や外交の発言は一つ一つが国内外に波紋を広げるため、これまでの政権以上に緊張感が求められています。

高市首相は元々、防衛・技術・情報安全保障に強い関心を持つ政治家で、総務大臣や経済安全保障担当相を歴任。
理系出身で政策通の一方、発言がストレートすぎるとの指摘もあり、今回の「台湾有事」発言もその延長線上にあるといえるでしょう。


■まとめ──高市政権は「現実的安全保障」と「外交バランス」の試練へ

今回の答弁を総括すると、高市首相は以下のようなメッセージを発したといえます。

  1. 台湾有事における日本の対応は「ケース・バイ・ケース」であり、自動的な武力行使は想定していない。

  2. 北方領土問題については「誤解を招く発言は慎むよう」閣僚に指導する姿勢を見せた。

  3. 解散については「現実路線」を貫き、政権運営の安定を優先している。

一連の発言は、保守的な防衛観を維持しつつも、外交リスクを最小化しようとする“バランス型”の立ち位置を示しています。
ただし、国内外の情勢は刻々と変化しており、高市政権にとって「どこまでが想定の範囲なのか」という判断力が、今後の最大の課題となるでしょう。

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