◆鈴鹿市で明らかになった“財布確認”の実態
三重県鈴鹿市が生活保護申請の際、申請者に財布の中身をすべて箱に出させ、1円単位で確認していたことが明らかになりました。
窓口には専用の箱が用意され、当日記帳した預貯金通帳や、財布に入っている硬貨まで出すよう求められていたのです。
こうした運用は、申請者に大きな心理的負担を与え、「惨めな気持ちになった」との声も上がりました。
制度利用を検討する人にとって、ハードルを高める行為であると批判が集まっています。
◆9月8日から新運用へ “自己申告制”に切り替え
鈴鹿市は9月4日に記者会見を開き、今後は「申請者の自己申告にとどめる方法へ切り替える」と発表しました。
9月8日からは、提出を求める資産申告書の「現金」欄に、本人が財布内の所持金額を記入する形式に変更されます。
この見直しにより、物理的に財布の中身を取り出す必要はなくなり、申請者のプライバシーや尊厳に一定の配慮がなされる形となります。
◆厚労省「財布内まで調べる規定はない」
厚生労働省によると、生活保護申請時には資産や収入を申告する必要があります。
しかし、「財布の中まで調べる規定は存在しない」とのこと。
つまり、鈴鹿市の運用は全国的なルールに基づくものではなく、市独自の判断でした。
結果的に過剰な確認となり、制度の利用をためらわせる行為だと問題視されています。
◆専門家の指摘「尊厳を傷つける不要な確認」
福祉行政に詳しい専門家は次のように指摘しています。
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「財布内の確認は必要性がなく、申請者の尊厳を損なう」
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「生活保護制度は憲法25条が保障する生存権に基づくもので、申請の妨げになるような運用は避けるべき」
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「こうした行為は『水際作戦』と呼ばれる申請抑制の一種と受け止められかねない」
申請者が“恥ずかしい思いをする”仕組みがあると、結果的に制度から漏れる人が増え、本来守られるべき命が危険にさらされる恐れもあると強調しました。
◆生活保護申請の流れと「資産申告」
生活保護を申請する際には、本人や世帯の収入・資産を申告する必要があります。
主な確認対象は以下のとおりです。
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預貯金通帳の残高
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自動車や不動産などの資産
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保険や年金の加入状況
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現金の所持額
これらを総合的に見て、最低生活費を下回っていれば保護が認められます。
しかし、現金の確認はあくまで申告に基づくものであり、窓口で財布を開けさせる必要はありません。
鈴鹿市の方法は、法的根拠を欠いた「過剰な運用」であったといえます。
◆なぜ鈴鹿市は財布確認を導入していたのか?
鈴鹿市は「資産の正確な把握のため」と説明しています。
ただし、財布に数百円や数千円が入っていても、支給額に大きく影響を与えるものではなく、厳密に1円単位で調べる合理性は乏しいとされています。
背景には「不正受給を防ぎたい」という自治体の思惑があるとも見られます。
しかし、その副作用として、正当に支援を受けるべき人まで申請をためらう状況を生んでしまいました。
◆生活保護制度を巡る“水際作戦”問題
日本では一部の自治体で、生活保護申請者を追い返す「水際作戦」が問題視されてきました。
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必要のない書類を求める
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生活保護ではなく他制度を勧める
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申請そのものを受け付けない
こうした対応は違法であり、過去には厚労省が自治体に是正を求めたケースもあります。
鈴鹿市のケースも「水際作戦の一環ではないか」との懸念が示されています。
◆市民やネットの反応
今回のニュースには多くのコメントが寄せられました。
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「恥をかかされているようで二度と申請したくなくなる」
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「本当に困っている人に冷たすぎる」
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「チェックする労力を別の支援に回すべき」
一方で、「不正受給があるのだから、ある程度の確認は仕方ない」という声も少なくありません。
世論は分かれていますが、少なくとも“財布を出させる方法”はやりすぎだったとみる人が多数派のようです。
◆今後の影響と課題
鈴鹿市は運用を改めるとしていますが、この問題は全国的な波紋を呼ぶ可能性があります。
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他の自治体でも同様の運用が行われていないか
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生活保護の申請手続きは利用者に過度な負担を与えていないか
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「不正受給対策」と「申請者の尊厳保護」をどう両立させるか
生活困窮者を支える最後のセーフティーネットを機能させるために、制度運用の透明性と人権意識が問われています。
◆まとめ
三重県鈴鹿市で行われていた生活保護申請時の「財布内現金確認」運用は、制度に明記されていない過剰な対応でした。
批判を受けて市は「自己申告制」に切り替えると発表し、申請者の尊厳に一定の配慮がなされる方向へ転換します。
今回の件は、生活保護をめぐる日本の制度運用に一石を投じる出来事となり、今後の全国的な議論にもつながるでしょう。
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