【ニューデリー爆発事件】医師や聖職者ら10人超を逮捕 カシミール独立派組織との関係を捜査 宗教と政治が交錯するインド社会の現実

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インドの首都ニューデリーで11月10日に発生した爆発事件は、国内外に大きな衝撃を与えています。観光名所として知られる「レッドフォート(赤い砦)」近くで起きたこの爆発は、国家の象徴的な場所を狙った犯行とみられており、インド社会全体が不安に包まれています。

事件から2日後、インド当局は医師や聖職者を含む10人以上を逮捕・拘束しました。捜査の結果、これらの人物がカシミール地方の分離・独立を求めるイスラム過激派組織「ジェイシ・モハメド(Jaish-e-Mohammed)」と関係している可能性があることが分かりました。



医師や聖職者も関与か 知識層の過激化に懸念

今回の事件で注目を集めたのは、逮捕された人物の中に複数の医師が含まれていたことです。地元メディアによると、爆発に使用された車を運転していたのはカシミール出身の医師で、ニューデリー近郊のファリダバードにある医科大学に勤務していました。

防犯カメラの映像では、事件当日の朝にこの医師がデリー中心部に向かっていた様子が確認されています。警察はその後、大学関係者などを拘束し、関連する民家から大量の爆発物や弾薬を押収しました。

さらに、同じ大学に勤務する別の医師や、北部ラクナウの女性医師、そしてカシミール出身のイスラム聖職者も逮捕されました。いずれも過激派とのつながりが疑われており、「教育を受けた知識層による過激化」という新たな課題に当局は強い危機感を示しています。


背景にある「カシミール問題」 長年の火種が再び表面化

この事件の背後には、インドとパキスタンの間で長年続くカシミール地方の領有権問題があるとみられています。カシミールは宗教・民族が入り混じる地域であり、住民の多数がイスラム教徒である一方、インド政府はヒンドゥー教徒が多数派の国家として統治を続けています。

2019年には、インド政府がカシミール地方に与えられていた特別自治権を撤廃し、地域の独立志向が再び強まりました。この措置に反発したイスラム過激派が活動を活発化させ、近年は武力衝突や爆破事件も増加しています。

今回、関与が疑われている「ジェイシ・モハメド」は、パキスタンを拠点とする武装組織で、過去にインド軍施設や政治家を狙ったテロ攻撃を繰り返してきた団体です。インド政府は同組織をテロリスト団体に指定しており、今回の事件がその一環である可能性が高いとみています。


拠点の摘発が“焦りの犯行”を招いた可能性

報道によると、逮捕された医師の1人が「より大規模なテロを計画していた」と供述したことが分かっています。事件当日、警察はファリダバードの民家を家宅捜索し、多量の爆発物を押収していました。こうした動きを察知したグループが、摘発を免れるために急いで犯行に及んだ可能性も指摘されています。

専門家の中には「本来はもっと大規模な攻撃を準備していたが、捜査の進展で計画を前倒しせざるを得なかったのではないか」と分析する声もあります。


レッドフォートでの爆発が持つ象徴的意味

事件現場となった「レッドフォート(赤い砦)」は、ムガル帝国時代に建てられた歴史的建造物で、インド独立記念日に首相が演説を行う場所として知られています。インドの歴史と国家主権を象徴する場所であるため、今回の爆発は政治的なメッセージ性が非常に強いとみられています。

現場では車両が炎上し、周囲の観光客が避難する騒ぎとなりました。大規模な死傷者は出ていませんが、警察はテロの可能性を重視し、首都圏全域で警備を強化しています。観光地を狙った犯行という点でも、市民の間で大きな不安が広がっています。


宗教と政治の狭間で揺れるインド社会

インドはヒンドゥー教徒が約8割を占める一方で、イスラム教徒も約2億人を超える多宗教国家です。多様性を誇る一方で、宗教間の緊張が絶えず、政治的な対立にも影響を与えています。

モディ政権のもとで推進されているヒンドゥー至上主義的政策が、イスラム系住民の不満を高めているとの指摘もあります。今回の事件がこうした宗教間の対立をさらに深めることを懸念する声も少なくありません。

社会学者の中には「この事件が宗教対立として報じられすぎると、国民の分断を助長する」と警鐘を鳴らす人もいます。インドでは経済成長によって中間層が増える一方、貧困層や教育機会に恵まれない層が過激思想に影響されやすいという現実もあります。社会全体の格差が、テロの温床になる危険性も指摘されています。


国際的な関与も調査中

インド政府は、国外の勢力が事件に関与していないかどうかについても慎重に調べています。「ジェイシ・モハメド」は過去にパキスタンの情報機関と連携していたとされており、インド当局は外国からの支援ネットワークが背後に存在する可能性を排除していません。

外務省は国際社会に対して情報提供を呼びかけ、テロ資金の流れを追跡しています。今回の事件は、インド国内の治安だけでなく、南アジア地域全体の安全保障にも影響を及ぼすおそれがあります。


市民の間で広がる不安と冷静な声

ニューデリーでは、爆発後も警察と国家捜査局(NIA)が連携して捜査を続けています。押収された爆発物の成分分析や通信記録の解析が進められており、背後関係の全容解明には時間がかかる見通しです。

市民の間では、「通勤経路が怖くなった」「観光地が再び狙われるのでは」といった不安が広がる一方、「宗教や出身地で人を疑うべきではない」という冷静な声も聞かれます。SNS上でも、「知識人の過激化は社会全体の危険信号だ」「教育の現場での対話が必要だ」といった意見が多く見られます。


今回の爆発事件は、単なるテロ事件にとどまらず、インド社会が抱える宗教的・政治的・経済的な複雑さを改めて浮き彫りにしました。
暴力ではなく対話による解決を模索できるかどうかは、13億人を超える多民族国家・インドの未来を左右する大きな課題です。
当局は事件の背景を徹底的に解明し、社会全体で再発防止への道を探ることが求められています。

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