奈良地裁で開かれた、安倍晋三元総理銃撃事件の裁判員裁判(田中伸一裁判長)第8回公判では、被告の山上徹也被告(45)の母親が、前回に続き証人尋問に立ちました。
母親は、息子が事件を起こした原因について「私が加害者」であると認め、献金に走った過ちを悔やむ姿勢を見せました。しかし、信仰する世界平和統一家庭連合(旧統一教会)からの脱会については否定的な考えを示し、その揺れる信仰心と息子への複雑な思いが法廷で浮き彫りになりました。
1. 「私が加害者」息子への謝罪と献金の過ち
母親は証人尋問において、山上被告が事件に至った責任について、自身に原因があると認めました。
「私が加害者」
と述べた上で、息子に対し「申し訳ない」と繰り返し謝罪しました。
献金への動機と自己矛盾する供述
旧統一教会への献金については、以下のように説明しました。
-
動機:「教会に尽くしたら家が良くなると思った」と、献金が家族のためになると信じていたことを説明。
-
過ちの認識:「献金に一生懸命になって大変な間違いをした。子どもに尽くすのが本当の道筋だったと思う」と、献金活動が子育てよりも優先されたことを悔やみました。
しかし一方で、献金の動機について「(教会から)ちやほやされるために献金した。教会が私に献金させた」とも述べ、献金活動の責任を教会側や自己承認欲求にも求めるような、自己矛盾を含む供述も示されました。
2. 献金返金と長男の自殺、そして山上被告の自殺未遂
証言では、献金による家庭崩壊の具体的な影響が語られました。
自殺未遂時の母親の行動
山上被告が海上自衛隊に入隊中の2005年に自殺を図った際、母親は韓国に滞在していましたが、すぐに帰国しなかったことを明らかにしました。
-
母親の弁明:「神様から『帰るな』という声が聞こえた」と説明。信仰が息子の命よりも優先された状況を証言しました。
献金の一部返金と長男の死
山上被告の自殺未遂後、被告の伯父が教団に抗議したことで、教団から合計5000万円の返金を受けることになりました。
この返金されたお金の一部は山上被告本人に渡りましたが、主には長男の治療費や予備校代などに充てられたといいます。しかし、長男はその後2015年に自殺してしまいます。
長男の死後、山上被告と母親は疎遠になり、母親は山上被告が事件を起こしたことをニュースで知ったと証言しました。
3. 「根は優しい子」と「脱会は否定」の複雑な胸中
母親は、山上被告の人間性について「根は悪い人間ではなく、本当は優しい子」と表現し、「私がしっかり対応できていれば事件は起こらなかった」と、改めて自身の責任を強調しました。
揺るがない信仰の壁
しかし、裁判官から旧統一教会からの脱会について問われると、母親は以下のように否定的な考えを示しました。
「できればこのままでいたい」
献金活動の過ちを悔やみ、息子に謝罪する一方で、自身の信仰心は手放すことができないという母親の葛藤と、根深い信仰への依存が浮き彫りとなりました。
4. 妹の証言と法廷での最後の謝罪
この日は、前回に引き続き山上被告の妹の証人尋問も行われました。妹は、祭壇に毎晩祈りをささげていた母親について、「受け入れられなかったし、おかしなことをしていて気持ち悪かった」と振り返り、母親の信仰に対する強い嫌悪感を示しました。
裁判官に制止されても伝えたい謝罪
母親の尋問はこの日で終了し、最後に「徹也には本当に申し訳ない」と謝罪の言葉を述べました。そして、裁判官に制止されながらも、法廷にいる山上被告に向かって「てっちゃんごめんね」と語り掛け、法廷を後にしました。
この時、山上被告は眉間にしわを寄せ、うつむき加減で、母親の言葉に対して直接的な反応を示すことはありませんでした。
母親の証言は、山上被告の犯行動機となった家庭崩壊の核心に触れるものでありながら、母親自身が未だに信仰から完全に抜け出せていないという、事件の複雑な背景を改めて浮き彫りにしました。今後の裁判では、この家族の生い立ちが事件にどう結びついたかが、さらに焦点となっていくと見られます。


コメント