2025年5月、マレーシア経済に注目が集まっています。
政府が発表した最新の経済指標によれば、2025年第1四半期のGDP成長率は前年同期比で4.4%。
これは前四半期(4.9%)からの減速であり、エコノミストたちの事前予測(4.5%)をもわずかに下回りました。
この数字だけを見れば、依然として堅調な成長と捉えることもできますが、背景にはいくつもの懸念材料が潜んでいます。
国内外のさまざまな要因が絡み合い、マレーシア経済はいま、慎重なかじ取りを求められる“分岐点”に差し掛かっています。
成長減速の主な要因
マレーシアの中央銀行「バンク・ネガラ・マレーシア」によると、今回の成長鈍化には以下のような要因が影響しています。
▼ 石油・ガス生産の落ち込み
マレーシア経済を支えている重要産業のひとつである石油・天然ガス部門で生産量が減少。エネルギー部門の低迷が、全体の成長率を押し下げる要因となりました。
▼ 自動車産業の“反動減”
前期に急増した自動車の販売・生産が落ち着き、今期は“反動減”という形で通常水準に戻りました。特需が終了したことによる鈍化です。
▼ 外需依存と世界経済の不透明感
マレーシアは外需依存型経済であるため、世界経済の不確実性、特に米中貿易摩擦などが成長にブレーキをかけています。
米国の関税が追い打ちに
2025年7月から、米国はマレーシア製品に対して最大24%の追加関税を課す計画を発表しています。
これが現実となれば、マレーシアの輸出産業に深刻なダメージを与えることは避けられず、企業や政府は対応に追われています。
この関税措置は、バイデン政権が進める「脱中国・脱アジア依存政策」の一環とされ、マレーシアやベトナム、タイなども対象となる見通しです。
エレクトロニクス製品や部品、自動車関連製品が主な対象とされており、輸出企業にとっては“死活問題”とも言える状況です。
中央銀行の対策
マレーシアの中央銀行は、景気を下支えするための金融政策にも乗り出しています。
- 法定準備率を1.00%に引き下げ、市場に約190億リンギット(約44億ドル)を供給。
- 政策金利の引き下げも視野に入れられており、2025年第4四半期には最大75ベーシスポイントの利下げが実施されるとの予測も。
これにより、貸し出しや投資活動の活発化を狙うと同時に、企業活動の下支えを強化する構えです。
政府の立場と今後の対応
アンワル・イブラヒム首相は、関税問題に対する強い懸念を表明しており、「この問題が長引けば、政府が掲げる年間成長率4.5〜5.5%の目標達成は難しくなる」と警鐘を鳴らしました。
現在、政府はアメリカとの交渉や、国際会議での外交努力を通じて関税の撤回・緩和を目指しています。
また、ASEAN諸国との連携強化も進めており、アジア経済圏内での内需循環を高める動きが進行中です。
国民生活への影響は?
経済の減速は当然、国民生活にも波及します。特に以下のような影響が懸念されています。
- 雇用環境の悪化:輸出企業の業績が悪化すれば、リストラや採用抑制の動きが出てくる可能性。
- 物価上昇の可能性:輸入コストの増加や通貨安が進めば、生活必需品の価格にも影響が。
- 住宅ローン金利の動向:中央銀行の政策変更により、ローン金利が変動する可能性もあり、家計に直撃する恐れ。
今後の展望とまとめ
マレーシア経済は、今なおアジアの中でも堅調な成長を維持している国のひとつです。
しかしながら、外的ショックに対しての脆弱さは依然として課題です。
2025年後半の経済動向を左右する最大のカギは、やはり「アメリカとの関税問題」と「中央銀行の金融政策のかじ取り」にあると言えるでしょう。
グローバル経済が不安定な今、マレーシアがどこまで国内の消費と投資を引き上げ、リスクを乗り越えられるか――注視が必要です。
※この記事はロイター通信・マレーシア統計局などの報道に基づいて構成しています。
コメント