芸人・山里亮太がフィリピンで「赤メガネ食堂」を建設した理由
お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のツッコミであり、「DayDay.」など数多くの番組でMCを務める芸人の山里亮太さん(47)が、フィリピンで低栄養の子どもたちに給食を提供する「赤メガネ食堂」を建設したことが大きな注目を集めています。
著名人が社会活動を行う際につきまとう「売名だ」「偽善者」といった批判の声に対し、山里さんは「それがブレーキにはならなかった」と強い意志を示しました。なぜ彼は、遠く離れたフィリピンの子どもたちの支援を選び、その活動を続けるのか。彼の深い思いと、活動の真意に迫ります。
偽善者批判を乗り越える強い信念
著名人の社会貢献活動には、残念ながら常に否定的な意見が付きまといます。「どうせ売名行為だろう」「偽善者ぶるな」「なぜ日本国内の子どもを助けないのか」といった批判がインターネット上などで飛び交うことは珍しくありません。山里さんの活動も例外ではありませんでしたが、彼は「それがブレーキにはならなかった」と断言します。
この強い信念の背景には、彼自身の偽善者性に対する独自の向き合い方があります。彼は、批判されることを承知の上で、自分が動くことで確実に「目の前の子どもたちが助かる」という事実を最優先しました。山里さんは、自身の活動が誰かの目に「偽善」と映っても、それによって「100人の子どもたちの笑顔」が生まれるならば、その行動は正当化されると考えているのです。
これは、彼が持つ人間としての「厚み」に対する劣等感から始まった探求の旅が、最終的に「行動こそが正義」という結論に至ったことを示しています。偽善者批判は、行動しないことへの言い訳にはならないという、彼の倫理観の表れと言えます。
なぜフィリピンなのか?劣等感からのスタート
山里さんがフィリピンの子どもたちの支援に乗り出したきっかけは、意外にも彼自身の「劣等感」でした。以前から子ども食堂への寄付などは行っていたものの、彼は長年にわたり、自分には人間としての「厚みがない」と感じ続けていたといいます。
この劣等感を妻である俳優の蒼井優さんに打ち明けた際、蒼井さんがママ友に相談。そのママ友がたまたまJICA(国際協力機構)の関係者だったという運命的な縁が生まれました。このご縁を通じて、山里さんは2023年にフィリピンを訪問し、取材する機会を得ました。
現地マニラの都市部の開発が進む一方で、スラム街の子どもたちが栄養失調に苦しみ、裸足で産業廃棄物の上を歩くという過酷な現実を目の当たりにしました。この衝撃的な光景が、彼の行動を決定づけました。
「赤メガネ食堂」がもたらす最高の場所
山里さんとNPO法人ACTIONが協力して建設した「赤メガネ食堂」は、マニラ首都圏北西部にあるタンザ小学校にオープンしました。この食堂の活動は、単に空腹を満たす以上の大きな意味を持っています。
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栄養改善:この食堂では、100人の低栄養児童に対して、1年間、月曜日から金曜日まで毎日、給食が無料で提供されます。栄養満点の給食は、子どもたちの身体的な発達を助け、低栄養による健康リスクを軽減します。
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教育機会の確保:山里さんは、子どもたちの中には夜中から朝まで父親の漁を手伝ってから学校に来る子、おなかが減って勉強ができない子がいることに心を痛めていました。給食が食べられるようになることで、学校が「友達もいるし、ごはんも食べられる最高の場所」に変わり、おなかがいっぱいになれば勉強にも集中できるようになります。学校への出席率向上にも直結するのです。
山里さんがオープンの日に現地を訪れた際、子どもたちが給食を「すごくうれしそうに、おいしそうに食べていた」こと、「これからも食べられるの?」という質問に「そうだよ」と答えたときの最高の笑顔が、彼の活動を続ける最大の原動力となっています。
親になったことと支援への深い共感
山里さんがフィリピンの子どもたちへの支援にここまで強くコミットするようになった背景には、2022年に娘が誕生し、親になったことが大きく影響しています。
彼は、親になったことで、「どの子も姪っ子や甥っ子のような近い存在に感じるようになった」と語っています。これは、血縁関係を超えて、すべての子どもたちの健やかな成長を願うという、普遍的な親心が芽生えたことを意味します。フィリピンの子どもたちが直面する過酷な状況を目の当たりにしたとき、もし自分の娘が同じ境遇に立たされたらという強い共感が、彼の行動を加速させたのです。
最終的に彼は、NPO法人ACTIONの代表である横田宗(はじめ)さんに「僕に何かできませんか」と伝え、具体的な支援を申し出ました。山里さんは、自身の知名度と経済力を、最も必要とされている場所で使うという、公人としての責任感を果たしていると言えます。
「赤メガネ食堂」の未来とメッセージ
山里亮太さんの「赤メガネ食堂」の取り組みは、芸能人という影響力のある立場が、社会課題の解決に貢献できることの具体的なモデルケースを示しています。彼の活動は、単なる資金提供に留まらず、自身のメディア露出を通じて、フィリピンの貧困問題や子どもの低栄養問題といった、見過ごされがちな国際的な課題に光を当てるという重要な役割も担っています。
「なぜ日本の子どもを助けるべきか」という批判に対し、山里さんは、国境を問わず、困っている子どもたちを助けるという人間としての普遍的な価値観を体現しています。彼の活動は、支援の輪を広げ、多くの人々が自身の「心の厚み」と向き合い、何かしらの行動を起こすきっかけとなるでしょう。
彼の活動の背景には、「劣等感」から始まり、「共感」、そして「行動」へと昇華された一連のプロセスがあり、その道のりこそが、彼が批判を乗り越えて活動を続けられる揺るぎない理由となっています。
