2025年11月25日、奈良地裁で開かれた安倍晋三元総理銃撃事件の裁判において、被告の山上徹也被告(25)が、旧統一教会関連団体に安倍元総理が寄せたビデオメッセージについて、強い「絶望と危機感」を抱いたと法廷で述べました。今回の被告人質問は2日目で、山上被告が事件の背景や個人的感情を詳しく語った重要な回となりました。
■ビデオメッセージが導火線に
山上被告は、安倍元総理が2021年に旧統一教会の関連団体「天宙平和連合(UPF)」に寄せたビデオメッセージについて、捜査段階から犯行のきっかけの一つとして指摘されていました。
法廷で山上被告は、ビデオメッセージが世に広まることで、旧統一教会が「問題のない団体」と認識されてしまうと感じたと述べています。
「最初は(安倍元総理が)現役の間には出ない良識はあったんだなと。逆に一度出てしまったら、これがずっと続いていくんだとしたら、どんどん社会的に認められて、問題のない団体だと認識されると思った」
さらに、被害を被った側の立場からすると、非常に悔しい、受け入れられないという感情が強かったと説明しました。
弁護人「感情的に表現すると?」
被告「絶望感と危機感だと」
弁護人「怒りは?」
被告「安倍元総理本人に対してではないけど、そうなっていることに対して、怒りというか……困るという感情」
このやり取りから、山上被告が自身の行動の背景に、社会的な認識や団体の存在感に対する強い懸念を抱いていたことが浮き彫りになりました。
■母親の信仰と家庭環境
山上徹也被告は、2022年7月、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、参院選候補の応援演説を行っていた安倍元総理を手製のパイプ銃で銃撃し、殺害したとして起訴されています。
これまでの裁判で、被告は自らの行為について「すべて事実です」と認めたうえで、法律上の評価は弁護人に委ねる姿勢を示しています。一方で、武器等製造法違反など一部罪については、成立を争う構えを見せています。
事件の背景には、被告の家庭環境が大きく影響しているとされています。捜査段階では、母親が旧統一教会に多額の献金を行った結果、家庭が経済的に困窮し、難病を抱える兄が十分な医療を受けられずに自殺したことなどを供述。被告自身も大学に進学できなかった経験を語っていました。
裁判では母親も証人として出廷し、「子どもたちの進学よりも献金することが大事だと考えていた」と証言。家庭内での信仰や献金の優先が、山上被告の行動に影響を与えたことが改めて示されました。
■裁判の流れと公判内容
今回の公判は、被告人質問の2日目にあたり、前回の11月20日には山上被告の子ども時代から23歳で自殺を図った頃までの事情について弁護人が質問していました。
被告の供述は、過去の家庭環境や精神的負担、社会的状況の認識が事件に至るまでの過程として整理され、法廷での発言は、事件の背景を理解するうえで重要な資料となっています。
特に、安倍元総理のビデオメッセージに対する被告の心理的反応は、事件の直接的動機の一端として注目されました。
■山上被告が語る「絶望と危機感」の意味
山上被告は法廷で、怒りや困惑、絶望感、危機感といった感情を率直に表現しました。
「被害をこうむった側からすると非常に悔しい、受け入れられないなと」
これらの言葉は、単なる個人的感情に留まらず、旧統一教会の社会的評価や影響力に対する懸念も含まれていました。被告の感情の深さは、単なる事件として片付けられない社会的背景を示しています。
■事件の社会的背景
旧統一教会の関連団体に対する寄付や活動への関与が、被告の家庭環境や人生に影響を与えたことは、これまでの裁判でも明らかになっています。母親の献金が家庭の生活や子どもたちの教育に影響したことが、山上被告の心理的動機の形成に関わっていたと指摘されています。
今回の公判での被告の発言は、個人の感情だけでなく、社会的な宗教団体の活動と個人の生活の関係性を浮き彫りにするものです。
■まとめ
11月25日の公判では、山上徹也被告が安倍元総理の旧統一教会関連団体へのビデオメッセージに抱いた「絶望感と危機感」が中心に語られました。被告は、自らの家庭環境や過去の経験を背景に、社会的認識の問題に強い懸念を抱き、事件に至った経緯を法廷で詳細に述べました。
今回の証言は、安倍元総理銃撃事件を単なる個人の犯罪として捉えるのではなく、家庭・宗教団体・社会的背景が複雑に絡んだ事件であることを示しています。
裁判は引き続き進行中で、今後も被告人質問や証人尋問を通じて、事件の全容や背景がさらに明らかになる見込みです。

