デジタルに飽きた「アルファ世代」の逆襲
最近、街中で妙な光景を目にすることが増えました。全身を最新のファッションで固めた若者が、1枚数千円、時には数万円もするような「シール」を真剣に選び、それを宝物のように分厚いバインダーに閉じ込めている姿です。
今の10代、つまり「アルファ世代(2010年代以降生まれ)」は、生まれた時からスマホやタブレットが当たり前にあった世代です。彼らにとって、デジタルはもはや「魔法」でも「刺激」でもなく、ただの日常であり、もっと言えば「退屈なインフラ」に過ぎません。
そんな彼らが今、猛烈な勢いで「手触りのあるもの」に回帰しています。それはかつての昭和レトロブームのような単なる懐古趣味ではありません。もっと切実で、少し不気味なほどの「物理的なモノ」への執着です。
【事実】なぜ「シール」や「ぬいぐるみ」なのか?
事実として、2025年から2026年にかけて、アナログホビー市場は異常な盛り上がりを見せています。かつて子供のおもちゃだったシールやステッカー、ぬいぐるみが、今や「大人の資産」や「精神安定剤」として取引されているのです。
特に注目すべきは、韓国やタイから流入してきた「デザイナーズ・ステッカー」や「アート・トイ」の存在です。これらは単なるキャラクターグッズではありません。
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限定性: 二度と再販されないシリアルナンバー入りのシール。
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質感への拘り: 特殊なホログラムや、触るとザラついた特殊印刷。
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1枚の重み: デジタル画像なら1秒でスクショできるものを、あえて数千円払って手に入れる。
私の知人の20代女子は、お気に入りのぬいぐるみブランド「Jellycat(ジェリーキャット)」や、特定の作家のシールをコレクションするために、毎月10万円以上を注ぎ込んでいます。彼女は言います。「SNSの『いいね』は消えるけど、このシールは私が剥がさない限り、ここにあり続けるから」と。
アルファ世代とは何か?
ここで少し「アルファ世代」について整理しておきます。彼らはZ世代の次を担う世代で、小学校に入る前からプログラミングやメタバースに触れてきた、いわば「完全デジタル人類」です。 彼らにとって、友達との会話はLINEやDiscord、遊び場はRobloxやFortniteの中。人生の半分以上をディスプレイの中で過ごしてきた彼らが、思春期を迎えてぶつかった壁が「情報の軽さ」でした。
何でもコピーできて、何でも加工できる世界。その中で彼らは、「自分だけの唯一無二の存在証明」を必死に探しています。その答えが、コピーできない「物理的な汚れや傷がつくモノ」だったというのは、皮肉な話です。
AI時代に「手触り」を求める切実な理由
なぜ2026年の今、ここまでアナログが加速しているのか。その背景には、AI(人工知能)の爆発的な普及があると感じています。
今や、美しいイラストも、感動的な文章も、AIが数秒で生成してくれます。画面の中にあるものは、もはや「誰が作ったか、本物かどうか」すら怪しい。そんな不確かな世界で、自分の手で触れ、重みを感じ、匂いがする「実体」だけが、唯一信じられるものになっているのではないでしょうか。
シールをバインダーに貼る時の、あの「ペリッ」という感触。 ぬいぐるみを抱きしめた時の、中綿の弾力。 これらはどれだけVR(仮想現実)が進化しても、脳に直接電気信号を送らない限り再現できない「生」の感覚です。彼らはデジタルの海で溺れそうになりながら、アナログという名の「浮き輪」に必死にしがみついているようにも見えます。
誰も書かない「シール投資」と「闇市場」のリアル
しかし、この純粋な「好き」の裏側には、大人が仕掛けたドロドロとしたマネーゲームも存在します。 今、フリマアプリでは、特定の人気作家が描いた1枚のシールが10万円を超える高値で転売されています。いわゆる「シール投資」です。
若者たちは、自分たちが熱狂しているものが、実は転売ヤーたちの標的になっていることに気づいています。それでも彼らは買い続ける。なぜなら、そのコミュニティに属していること、その「高価な実体」を持っていることが、メタバース内での課金アイテム以上に、リアルな世界でのステータスになるからです。
「デジタルは誰でも持てるけど、このシールを持っているのは世界で私だけ」。 この独占欲が、価格を吊り上げ、市場を異様な熱気に包み込んでいます。
ぬいぐるみは「令和の御札」になった
また、ぬいぐるみの流行も独特です。かつての「可愛いから買う」というレベルを超え、今や「自分の身代わり」や「守護霊」に近い扱いをされています。 旅先に連れて行って写真を撮る「ぬい撮り」は当たり前。2026年の今では、ぬいぐるみのための「専門の美容室(クリーニング)」や「服のオーダーメイド」に数ヶ月待ちの行列ができるほどです。
孤独なデジタル社会の中で、何も言わずに自分を受け入れてくれる「物理的な実体」。それはもはや玩具ではなく、メンタルヘルスを支えるインフラの一部と言っても過言ではありません。
結びに:私たちが失いつつある「不自由さ」への憧れ
便利なデジタルを突き詰めた結果、私たちが最後に行き着いたのは、不自由で、かさばって、劣化する「アナログなモノ」でした。
3000文字近く、この現象について考えてきましたが、結局のところ、人間はどこまで行っても「肉体を持った動物」なのだと思い知らされます。0と1のデータでは、私たちの心の空腹は満たせません。
2026年、シール1枚に10万円を払う若者を笑う大人は多いでしょう。でも、彼らは誰よりも切実に「本物」を探しているだけなのです。画面をスクロールする手を止めて、1枚のシールの粘着力を指先で感じる。その瞬間にだけ、彼らは自分が生きていることを実感できているのかもしれません。
次にあなたが街でシールを眺める若者を見かけたら、それは単なる趣味ではなく、デジタル社会に対する「静かな抵抗」なのだと思ってみてください。
