2026年4月1日、障害者雇用促進法の改正により、長年続いてきた「障害者雇用の除外率」が完全に撤廃されます。これにより、企業が確保すべき障害者雇用の人数が大幅に増えるケースも出てきます。
一見すると「特定の会社だけに関係する話」のようにも思えますが、実際には働くすべての人に影響する大きな制度変更です。企業の採用方針、職場環境づくり、さらには社会全体の“働き方の多様性”にも直接かかわってきます。
ここでは、「除外率って何?」「企業はどう変わる?」「社会にはどんなメリットがある?」という疑問を、専門用語なしでわかりやすく解説します。
■そもそも「除外率」とは?
これまで、業種によっては「障害者雇用が難しい」とされ、法律で定められた障害者雇用率から一定割合を“減らす”ことが認められていました。これが「除外率」です。
たとえば、
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力仕事が中心の業界
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特殊な技能が必要な業界
などは、「通常の雇用率をそのまま適用するのは難しい」という理由で、雇用義務の人数を少なく計算できていたのです。
しかしこの仕組みが「障害者雇用を広げるうえで壁になっている」という指摘が続いてきました。
■2026年4月からどう変わるの?
結論はとてもシンプルです。
→ 業種ごとの“特例”が廃止され、全業種・全企業に同じ計算方法が適用される。
つまり、これまで「除外率」が適用されていた業種でも、通常の法定雇用率(2026年時点でおそらく2.5%以上)を満たす必要が出てきます。
その結果、
雇用しなければならない障害者の人数が増える企業が多くなる
というわけです。
■なぜ完全撤廃されるのか
大きな理由は3つあります。
●(1)働ける障害者の活躍の場が増えている
テレワーク・デジタル化・業務分担の細分化などにより、以前より多くの職種で障害者が力を発揮できる環境が整っています。
「この業種は向いていない」という前提そのものが古くなってきました。
●(2)国全体で“包摂的な働き方”を進める流れ
多様な働き方を認める動きの中で、障害のある人の就労機会の確保は優先度が高いテーマ。
除外率の撤廃は、その象徴的なステップとされています。
●(3)国際的な潮流
欧米では、業種ごとの特例を設けずに雇用を促す国も多く、日本としても国際標準に近づく目的があります。
■企業にどんな影響がある?
●(1)必要な雇用人数が増える
除外率がなくなると、中規模・大規模企業では、義務人数が2倍近くになるケースもあり得ます。
●(2)採用だけでなく“職場づくり”が本格的に求められる
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業務の切り出し
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障害特性に合ったサポート
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職場の理解促進(研修など)
など、単なる“人数合わせ”では通用しなくなります。
●(3)テレワーク採用の増加
身体障害や通勤が難しい人の採用を広げるため、在宅勤務を積極的に活用する企業が増えると予想されます。
■働く側にはどんなメリットが?
●(1)就職の選択肢が広がる
これまで受け入れが少なかった業種にも門戸が開かれます。
●(2)働く環境が改善する
企業側の体制整備が進むことで、サポートを受けながら働ける環境が広がります。
●(3)周囲の理解が深まる
障害者雇用が増えることで、職場の多様性が当たり前になり、偏見が薄まる効果もあります。
■一方で、企業側の課題も
●(1)中小企業の負担
専門部署・人事リソースが少ない企業では、採用・教育・定着支援の体制づくりに悩むことが予想されます。
●(2)ミスマッチ採用のリスク
採用数のノルマだけが先行すると、本人にとっても企業にとっても不幸なマッチングになる可能性があります。
これを防ぐためには、
「業務をどう切り出すか」「働き方をどう柔軟にするか」
といった設計力が重要になります。
■社会全体にはどんな意味があるの?
除外率の撤廃は、単なる「企業負担の増加」ではありません。
●暮らしやすい社会づくりの一歩
障害の有無に関わらず働ける社会は、少子高齢化が進む日本にとって不可欠です。
●労働力不足の解消にも
企業にとっても、長く働いてくれる人材を確保するチャンスになります。
●周囲の働き方も変わる
障害のある人が働きやすい職場は、
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育児中の社員
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介護と両立する社員
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メンタル不調を抱える社員
など、多様な社員にとっても働きやすい環境になる傾向があります。
結果的に、“みんなにやさしい職場づくり”が進むきっかけになるのです。
■まとめ
2026年4月の「除外率撤廃」は、企業と社会にとって大きな転換点です。
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障害者雇用義務が実質的に強化
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企業の採用・育成・職場づくりが変わる
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障害のある人の働く場が広がる
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結果として働きやすい社会の実現にもつながる
制度変更というと硬い話に聞こえますが、実際には「これからの働き方」そのものを左右する重要なテーマです。

