自民・維新が整備委設置、小浜京都ルートを含む8案を検証
北陸新幹線の敦賀(福井県)から新大阪(大阪府)までの延伸ルートについて、与党自民党と野党日本維新の会は2025年12月15日、共同で整備委員会を開き、現行計画の「小浜京都ルート」を含めた全8パターンについて、再度検討することを正式に決定しました。この決定は、2016年に自民・公明政権のプロジェクトチームが採用を決定した小浜京都ルートの見直しを意味し、延伸計画の行方に大きな影響を与えるものとなります。
今回の再検討の動きは、維新側が滋賀県を通る「米原ルート」などを含む8パターンを提示し、検討のやり直しを強く求めたことに対し、自民側が譲歩した格好となりました。自民党内には、これまでのルート選定の経緯や、すでに費やした議論の労力を尊重すべきだという意見もありましたが、維新側の強い要望と、現行ルートが抱える着工の遅れという現実的な課題に鑑み、再検証の必要性を認めたと見られます。
紛糾するルート選定、着工に至らない現状
北陸新幹線の敦賀以南のルートは、長年にわたり、沿線自治体や政界で紛糾の種となってきました。
採用された「小浜京都ルート」の課題
自民・公明政権の与党プロジェクトチームは2016年、複数の候補案の中から、福井県小浜市を経由し、京都駅を通って新大阪に至る「小浜京都ルート」を正式に採用しました。このルートは、京都市内の地下を通る計画が中心となります。しかし、この計画に対しては、以下のような問題点が指摘され、未だに着工に至っていません。
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地下水への影響の懸念:特に京都府内では、新幹線トンネル工事による地下水脈への影響を懸念する声が市民や自治体から上がり、環境アセスメントや地元との調整が難航しています。京都市内は歴史的な遺産が多く、地下工事には極めて高い技術と慎重さが求められます。
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工費の増大と工期の長期化:都市の地下深くを掘削する工事は、他のルートに比べて工費が大幅に増大し、工期も長期化する可能性が高いとされています。
維新が推す「米原ルート」の再浮上
今回、維新側が再検討を求めた「米原ルート」は、滋賀県の米原駅を経由し、東海道新幹線に乗り入れるという案です。このルートには、以下のようなメリット・デメリットがあります。
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メリット:既存の東海道新幹線(JR東海)の線路を活用できるため、建設費が大幅に削減され、工期も短縮できる可能性が高い。また、米原駅は交通の要衝であり、東海道新幹線との乗り継ぎの利便性も高い。
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デメリット:東海道新幹線への乗り入れによって、東海道新幹線のダイヤが過密化し、遅延リスクが増大する可能性がある。また、米原~新大阪間の線路使用料をJR東海に支払う必要があり、その交渉が難航する可能性がある。
再検討の具体的な中身と検証方針
整備委員会は、年明け以降、運行主体となるJR西日本や、福井県、滋賀県、京都府、大阪府などの沿線自治体から幅広く意見を聞く方針を決定しました。これは、これまでのルート選定過程が、政治主導で行われ、地元や事業者の意見が十分に反映されていなかったという批判に対応する狙いがあります。
また、再検討において最も重要な要素となるのが、費用対効果の検証です。委員会は国土交通省に対し、各ルートの費用を、近年の原材料価格の高騰や人件費の上昇といった経済状況を織り込んだ上で、改めて試算するよう求めました。
費用対効果の検証要素
費用対効果(B/C)の検証では、主に以下の要素が比較検討されます。
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建設費(C):トンネルや橋梁の延長、地下工事の有無など、ルートごとの建設コスト。
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便益(B):時間短縮効果(移動時間削減)、輸送力増強による経済効果、観光客増加による地域経済への波及効果など。
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環境負荷:工事による環境への影響、特に地下水や自然保護区への影響。
2016年の試算当時から、資材価格は大きく上昇しており、特に地下深くを掘削する小浜京都ルートの費用は、当初の試算を大幅に上回る可能性が高いと見られています。この費用上昇の度合いが、今回の再検討における最も決定的な要素となる可能性が高いです。
結論時期と政治的な背景
共同委員長を務める自民党の西田昌司参院議員は、結論時期について「見通しが立っているわけでない」と述べており、今回の再検討が長期化する可能性を示唆しています。全8ルートの費用対効果を最新の経済状況で試算し直すには、相応の時間が必要です。
この再検討の動きの背景には、政治的な力学も大きく関わっています。
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維新の存在感向上:日本維新の会は、大阪・関西を地盤とし、近年、国政での影響力を急速に高めています。インフラ整備という国家プロジェクトにおいて、自民党に譲歩を迫り、検討プロセスに食い込んだことは、維新の政治的勝利と見ることができます。
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自民の協調姿勢:自民党が維新の要求に応じたのは、国会運営における協調姿勢を示す狙いや、現行ルートの着工遅延という「負の遺産」を早期に解消したいという思惑があったと分析されます。
北陸新幹線の大阪延伸は、北陸地方の経済活性化、そして近畿地方へのアクセス改善という点で、国家的な重要プロジェクトです。今回の再検討が、単なる政治的な駆け引きに終わることなく、最も合理的で持続可能なルートの選定に繋がるのか、沿線自治体と国民の大きな関心を集めています。
