2025年9月、日本銀行(日銀)が長年にわたり保有してきたETF(上場投資信託)を売却していく方針を発表しました。このニュースは瞬く間に市場を揺らし、株価が大きく下落する場面もありました。「日銀がETFを売却するってどういうこと?」「株は大丈夫なの?」と戸惑う人も多いでしょう。本記事では、日銀が何をしてきたのか、なぜ今売却に踏み切るのか、そして今後の株式市場や経済がどうなっていくのかを、初心者にもわかりやすく解説します。
日銀がやってきたこと:株価を支える「最大の株主」
日銀は2010年代以降、景気刺激策の一環として株式市場に介入し、ETFを大量に買ってきました。ETFとは、いわば「株の詰め合わせパック」で、トヨタやソニーなど多くの企業の株をまとめたものです。日銀がこれを買うことで市場にお金が流れ、株価が下がりにくくなる仕組みです。
結果として日銀は、日本株市場で最大級の投資家となりました。トヨタやファーストリテイリングなど大企業の大株主に名を連ねるほどの規模で、いわば「株価の守護神」として市場を支えてきたのです。
今回の発表:ETFを「売る」とは?
そんな日銀が2025年9月に発表したのは、保有しているETFを少しずつ市場に売却していくという方針です。
ただしポイントは「ゆっくり少しずつ」ということ。
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年間の売却額は簿価ベースで約3,300億円程度(時価では6,000億円超)
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日銀の保有総額は簿価で約37兆円
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このペースだと売り終わるまで100年以上かかる
つまり「いきなり株を大量に手放して暴落を引き起こす」わけではなく、慎重に進める姿勢です。
市場の反応:驚きと不安で株価が急落
発表直後、投資家は「ついに日銀が株を売るのか」と驚き、一時的に日経平均株価は800円以上も下がる場面もありました。
しかし冷静に数字を見れば、年間6,000億円程度の売却は、日本株市場の1日の売買代金に比べればごくわずか。専門家の多くは「実際の需給への影響は限定的」とみています。
ただし、市場にとって重要なのは「心理的なインパクト」です。日銀という最大の買い手が「これからは売り手になる」と宣言したこと自体が、投資家の不安を呼び起こしたのです。
なぜ今、売却に踏み切ったのか
背景には「異次元緩和」と呼ばれた過去の金融政策からの脱却があります。
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超低金利政策、巨額の国債・ETF購入などで市場を支えてきた
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しかしインフレ率が上がり、緩和を続ける必要性が薄れてきた
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長期的にみれば、日銀が株を大量に持ち続けるのは市場の健全性を損なう
こうした理由から、「市場を正常化させる一歩」としてETF売却が位置づけられています。
今後どうなっていくのか(重点解説)
① 株価は上下が大きくなりやすい
これまでは「下がりそうになると日銀が買って支える」という安心感がありました。しかし今後はその「安全網」が薄れていくため、株価は上下に振れやすくなります。特に短期的には「日銀が売るかも」という思惑が先回りして株価を動かす場面も増えるでしょう。
② 投資家の選別が進む
ETFという「株の詰め合わせ」を日銀が支えていた時代は、良い会社もそうでない会社も一緒に値上がりしやすい構造でした。今後はその支えが減るため、成長性や収益力のある企業がより評価され、そうでない企業は株価が上がりにくくなる「選別の時代」に入る可能性があります。
③ 金利や為替にも影響
ETF売却は「金融緩和の縮小」を象徴する動きです。将来的には金利をさらに上げる流れや、国債購入の縮小など、追加的な政策転換につながる可能性があります。金利が上がれば円高になりやすく、輸出企業の業績に影響が出るかもしれません。
④ 長期的には市場の健全化
短期的には株価の不安定化が避けられませんが、長期的には「国の中央銀行が株を買い続ける異常な状態」が是正されることは、市場の健全性にとってプラスです。投資家にとっても「本当に強い企業」を見極める投資が求められる時代へと変わっていくでしょう。
まとめ
日銀のETF売却方針は、すぐに大きな株価下落を招く規模ではありません。しかし、象徴的には大きな意味があります。「日銀が市場を守る時代の終わり」が始まったことで、投資家心理や株式市場の動きがこれまで以上に敏感になるのです。
今後は、
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株価の上下が大きくなる
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成長企業とそうでない企業の差が鮮明になる
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金利・為替にも波及する可能性
こうした変化が進むと見られます。
つまり今回のニュースは、「日銀のETF売却」そのものよりも、「日本の金融政策が転換期に入った」というサインとして理解するのが重要です。