牛丼大手、ラーメン事業を大拡充へ
牛丼チェーン大手の松屋フーズホールディングス(HD)が、つけ麺業界のトップブランドの一つである「六厘舎」を手掛ける松富士(東京・千代田)を巨額で買収することを発表しました。2025年12月15日の発表によると、松屋フーズHDは2026年1月5日付で、松富士の全株式を取得する予定であり、買収額は91億円に上ります。この大型買収は、松屋フーズHDがラーメン事業を新たな収益の柱として育成する強い決意を示すものであり、外食業界における事業再編の動きを加速させます。
松屋フーズHDは、これまでも中華料理チェーン「松軒中華食堂」や、2025年7月末に誕生した新業態「松太郎」など、2ブランドを通じてラーメン店を11月末時点で11店舗展開していました。しかし、今回の松富士の買収により、そのラーメン事業の規模は一気に拡大し、つけ麺分野という新たな強力な武器を手に入れることになります。
六厘舎の松富士、その実力とブランド力
買収される松富士は、そのブランド力と事業規模において、つけ麺業界で圧倒的な存在感を放っています。同社が展開する主なブランドには、濃厚な魚介豚骨スープと太麺が特徴で、つけ麺ブームの火付け役となった「六厘舎」のほか、日常的な利用に適した「舎鈴」などがあります。
松富士は、関東地方を中心にこれらのブランドを展開しており、2024年11月末時点で120店舗を運営しています。これは、松屋フーズHDが既存で展開していた11店舗を大きく凌駕する規模です。さらに、同社は埼玉県にセントラルキッチンを保有しており、安定した品質と供給体制を構築している点も、買収側の松屋フーズHDにとって大きな魅力となっています。セントラルキッチン方式は、複数の店舗に統一されたスープや麺を供給することを可能にし、品質の均一化とコスト効率の向上に貢献します。
松富士の業績も好調で、2025年6月期の連結売上高は前の期比18%増の100億円を達成し、純利益も18%増の1億6300万円を計上しています。コロナ禍からの回復と、つけ麺市場の根強い人気を背景に、堅調な成長を続けていることが、今回の高額買収の根拠となっています。
松屋フーズHDの成長戦略と多角化
松屋フーズHDは、主力事業である牛丼チェーン「松屋」が安定的な収益基盤である一方、近年は事業の多角化を積極的に進めています。定食・とんかつ専門店の「松のや」や、カレー専門店など、幅広い外食事業を展開し、収益源の分散を図ってきました。
今回の松富士買収は、この多角化戦略の中でも、特に成長分野であるラーメン・つけ麺市場に本格参入する意図が明確です。つけ麺は、ラーメンとは異なる専門的な調理技術や、独自の顧客層を持つ市場であり、「六厘舎」という確立されたブランドと、手軽な「舎鈴」という幅広い層を捉えるブランドを同時に手に入れることは、市場シェアを一気に獲得することを意味します。松屋フーズHDは、この買収を機に、ラーメン事業を牛丼、とんかつに次ぐ「新しい収益源」として育成する方針を掲げています。
外食チェーン間の競争激化とラーメン事業拡大
牛丼チェーン業界では、近年、ラーメン事業の拡充競争が激化しています。その背景には、市場の成熟に伴う牛丼事業の成長鈍化と、安定した需要が見込めるラーメン市場の魅力があります。
松屋フーズHDのライバルである吉野家ホールディングス(HD)も、ラーメン事業を積極的に展開する計画を打ち出しています。吉野家HDは、国内外で展開するラーメン店を、2030年2月期までに前期比4倍の500店まで拡大する計画を発表しており、ラーメン市場における競争が今後さらに激化することは確実です。
牛丼チェーンがラーメン事業を強化するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
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インフラの共有:既存の調達ルートや物流システム、店舗開発ノウハウなどを活用できる。
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顧客層の相互補完:牛丼とは異なる客層(特に若年層やラーメン愛好家)を取り込むことが可能になる。
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多ブランド戦略:一つのブランドに依存せず、市場の変化に対応できる柔軟な収益構造を構築できる。
今後の展開と買収のシナジー効果
松屋フーズHDと松富士の統合により、どのようなシナジー効果が生まれるのかが、今後の焦点となります。
考えられるシナジー効果としては、コスト削減と店舗展開の加速が挙げられます。
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サプライチェーンの統合:松屋フーズHDの持つ大規模な食材調達力と、松富士のセントラルキッチン機能を統合することで、食材の調達コストや製造コストの大幅な削減が期待されます。
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出店ノウハウの活用:松屋フーズHDが持つ国内外の店舗開発ノウハウや、立地選定のデータを、六厘舎や舎鈴の出店戦略に活用することで、店舗数のさらなる拡大が加速すると見られます。特に「舎鈴」のような比較的安価で幅広い客層をターゲットとするブランドは、松屋の既存店舗の隣接地や、駅前などの好立地に出店する余地が大きいと考えられます。
今回の買収は、松屋フーズHDが100億円規模の事業を傘下に収めることで、グループ全体の売上高と利益に大きく貢献し、企業価値の向上に直結すると期待されています。
外食業界の巨頭によるこの大型買収は、つけ麺市場の勢力図を一変させ、日本の外食市場の再編の大きな波となるでしょう。松屋フーズHDが、この新しい収益源をいかに育て、激化するラーメン戦争を勝ち抜いていくのか、今後の展開から目が離せません。

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