トランプ砲で注目!日米の自動車市場はこんなに違う
トランプ大統領が日本の軽自動車の米国での製造・販売を容認する方針を打ち出したことで、日本のメーカーは世界最大の自動車市場への新たな参入機会を得る可能性が出てきました。
しかし、日本で国民の3分の1以上が軽自動車に乗るのに対し、アメリカでは巨大なピックアップトラックやSUVが主流です。この巨大な市場に、日本の軽自動車はどのように食い込むことができるのでしょうか?
本記事では、軽自動車がターゲットとするアメリカの自動車市場の「今」を知るために、アメリカにおける車のメーカー別・車種別の保有割合や販売傾向を深掘りし、その勢力図を徹底的に分析します。
1. 🇺🇸 アメリカ自動車市場の全体像:巨大なパイと高い競争率
アメリカの自動車市場は、新車販売台数で見ても、保有台数で見ても、世界有数の規模を誇ります。その特徴は、「大型車志向」と「多様性」です。
A. 市場規模:保有台数は日本の約2倍
アメリカにおける乗用車の保有台数は2億8,000万台(2023年時点、Hedges & Company調べ)を超え、日本の保有台数(約8,000万台)と比較しても、その規模の大きさが際立っています。
この巨大な市場は、自動車メーカーにとって最大の収益源であり、競争が最も激しい戦場です。
B. 車種の主流:ピックアップトラックとSUVが絶対王者
アメリカ市場の最大の特色は、大型車への根強い需要です。
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ピックアップトラック: 州によっては乗用車として扱われることもあるピックアップトラックは、農業、建設業、そしてレジャー用途で絶大な人気を誇ります。特に、「フルサイズ」と呼ばれる大型モデルが主流です。
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SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル): 家族での利用や長距離移動、悪路走行への対応力から、小型車やセダンに代わってファミリーカーの定番となっています。
近年は燃費規制や都市部での需要の高まりから、小型のクロスオーバーSUVも人気ですが、依然として車体の「大きさ」がステータスとなる文化が根付いています。
2. 🗺️ メーカー別保有割合:ビッグスリーと日本勢の激戦区
アメリカの自動車市場は、伝統的な国内メーカー「ビッグスリー」と、日本を筆頭とするアジア勢、そして欧州勢が複雑に絡み合う「激戦区」です。
A. トップメーカーの保有台数シェア(推定)
保有台数ベースで見ると、長年にわたり国内で販売を続けてきたビッグスリー(GM、フォード、クライスラー)が上位を占める傾向にありますが、日本メーカーのシェアが急速に拡大しています。
| 順位 | メーカー | 参加企業 | 推定保有シェア | 主要な人気の理由 |
| 1 | ゼネラルモーターズ (GM) | シボレー、GMC、キャデラックなど | 約17\% \sim 18\% | ピックアップトラック(シボレー・シルバラード)、SUVのラインナップの豊富さ、歴史とブランド力。 |
| 2 | フォード (Ford) | フォード、リンカーン | 約14\% \sim 15\% | Fシリーズ(ピックアップ)の圧倒的な販売台数、マスタングなどの象徴的な車種。 |
| 3 | トヨタ (Toyota) | トヨタ、レクサス | 約13\% \sim 14\% | 高い信頼性・耐久性、ハイブリッド技術、カムリ・カローラなどセダンの安定した人気。 |
| 4 | ステランティス (Stellantis) | クライスラー、ジープ、ラムなど | 約10\% \sim 11\% | ジープブランドの悪路走破性・レジャー用途での強さ、ラム(ピックアップ)の根強い人気。 |
| 5 | ホンダ (Honda) | ホンダ、アキュラ | 約8\% \sim 9\% | シビック、アコードなどのセダンの信頼性、CR-VやパイロットといったSUVの堅実な人気。 |
| 6 | 日産 (Nissan) | 日産、インフィニティ | 約6\% \sim 7\% | 低価格帯での競争力、ローグなどのクロスオーバーSUVの浸透。 |
【解説】
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ビッグスリーの強み: GMとフォードは、収益性の高い大型ピックアップトラックとSUVで圧倒的な強さを持ちます。特にフォードのFシリーズは、長年アメリカで最も売れている車の座を譲らない絶対王者です。
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日本勢の強み: トヨタとホンダは、品質、信頼性、耐久性(Quality, Reliability, Durability – QRD)という点でアメリカの消費者の信頼を勝ち取り、着実にシェアを拡大してきました。セダンからSUVまで幅広い層に受け入れられています。
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新興勢力: EV市場ではテスラが急速に台頭し、保有台数シェアはまだ小さいものの、販売台数での存在感は無視できません。
3. 🎯 車種別保有割合:ベストセラーから見るアメリカ人の「足」
保有台数が多いということは、その車種が長期間にわたって市場で愛され続けていることを意味します。ここでは、アメリカで最も愛され、多く保有されている車種の傾向を見ていきます。
A. 全米ベストセラー車種の構造
アメリカのベストセラーカーランキングは、日本とは全く異なる様相を呈しています。販売台数のトップは常にピックアップトラックが独占しています。
| 車種区分 | ベストセラー車種(例) | 主な人気の理由 |
| ピックアップトラック | フォード Fシリーズ、シボレー・シルバラード、ラム・ピックアップ | 建設資材やレジャー用品の運搬能力、大型トラックを所有するステータス性、高い牽引能力。 |
| SUV | トヨタ RAV4、ホンダ CR-V、日産 ローグ | セダンからの乗り換え層を多く獲得。運転のしやすさ、広々とした室内、安全性への意識の高まり。 |
| セダン | トヨタ カムリ、ホンダ シビック、ホンダ アコード | 長距離通勤での燃費の良さと快適性、「壊れない車」としての信頼性。 |
B. 保有割合が高い車種の傾向
保有台数の多さは、販売台数の多さと「長寿命」に比例します。長年使われ続けている車種の多くは、以下の特徴を持ちます。
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耐久性が高い(トヨタ、ホンダ系): 特にトヨタのカムリやホンダのアコードは、20万マイル(約32万km)を超えても使用されるケースが多く、保有台数を押し上げています。
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歴史が長い(ビッグスリー系): フォードFシリーズやシボレー・シルバラードは、何十年にもわたってモデルチェンジを繰り返し、常に大量に販売されてきたため、古いモデルも合わせると保有台数が非常に多くなります。
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ファミリーカーの定番(SUV系): 世代交代が進む中で、トヨタRAV4やホンダCR-VのようなコンパクトSUVが、ファミリーカーの主役となり、保有台数を急速に増やしています。
4. 📈 軽自動車解禁の行方:どこにビジネスチャンスがあるか?
この巨大なアメリカ市場に日本の軽自動車が参入するとしたら、一体どのような層や用途をターゲットにするべきでしょうか?
軽自動車の最大の武器は「サイズ」「燃費」「価格」です。
A. ターゲット市場:都市部とセカンドカー需要
軽自動車がフルサイズピックアップトラックと正面から競合することは現実的ではありません。軽自動車の市場は、これまで大型車に乗っていた層の「ニッチな需要」を取り込むことになります。
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大都市圏の通勤・移動手段: ニューヨーク、ロサンゼルスなどの大都市圏では、駐車場の確保や交通渋滞が深刻です。軽自動車のコンパクトさは、都市部の通勤者にとって大きなメリットとなります。
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セカンドカー(近隣移動用): 既に大型車を所有している家庭の「近所の買い物や送り迎え専用車」としての需要。維持費が安く、小回りが利く点が評価されるでしょう。
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環境意識の高い層: 特に日産の「サクラ」のような軽EVは、ゼロエミッションで小回りが利く「グリーンなシティコミューター」として、環境意識の高い消費者層に響く可能性があります。
B. EV市場の可能性
軽自動車が最も早く浸透する可能性があるのは、EV市場です。
テスラが牽引するEV市場は、価格帯が高く、バッテリーサイズも大きい車が主流です。そこに、「低価格・小容量バッテリーで近距離移動に特化した軽EV」を投入できれば、既存のEVメーカーとは異なる新しい市場(エントリーレベルのEV)を創造できるかもしれません。
しかし、軽自動車は高コストな割に利益が少ない商材であり、アメリカの労働力や安全基準に合わせた新規生産ラインの立ち上げには、日産、ホンダ、三菱などのメーカー間の連携が不可欠となるでしょう。
結び:軽自動車が変えるアメリカのカーライフ
日本の軽自動車が米国で解禁されることは、単に新しい車種が市場に加わるという以上の意味を持ちます。それは、アメリカ人の「大きな車が正義」という長年の価値観に、「賢いサイズ」という新しい選択肢を提示することになります。
軽自動車の未来は、アメリカ市場の巨大な勢力図を前に、メーカーがどれだけ賢く、そして連携して市場のニッチなニーズを捉えることができるかにかかっています。

