2025年9月25日、国際協力機構(JICA)は「アフリカ・ホームタウン」構想を正式に撤回すると発表しました。本構想は日本の地方自治体とアフリカ諸国を1対1で結び、研修や交流を通じた人材育成・経済連携を促すことを目的としていましたが、名称や認定の在り方が国内で誤解を生み、自治体側に過大な負担と混乱を与えたことが撤回の決め手となりました。
ホームタウン事業の概要(改めて)
本構想は、2025年8月に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の場で発表され、国内の4市をアフリカ4か国の“ホームタウン”として認定する計画でした。具体的には以下の組み合わせが公表され、自治体ごとに農業、医療、漁業、産業人材育成、交流プログラムなど分野別の連携を想定していました。
- 愛媛県今治市 ー モザンビーク
- 千葉県木更津市 ー ナイジェリア
- 新潟県三条市 ー ガーナ
- 山形県長井市 ー タンザニア
認定そのものはJICAが行い、認定を受けた自治体は今後の交流計画作りや受け入れの調整を進めることになっていましたが、細部については今後詰める段階でした。
なぜ撤回になったのか(経緯)
撤回の直接的なきっかけは、構想発表後にSNSや一部報道を通じて「移民の受け入れを促すものではないか」という誤情報や憶測が急速に拡散したことです。中には外国側(報道や政府機関とされる情報)から「特別なビザが設けられる」といった趣旨の情報が流れ、それがさらに誤解を助長しました。
JICA側は会見で「移民を促進するための取組は行っていない」と明言しつつも、「ホームタウン」という言葉や“認定”という仕組み自体が誤解を招き、4自治体に過大な負担が生じたことを理由に撤回を決断したと説明しています。
自治体ごとの反応と影響(追加取材)
今治市(愛媛)
今治市はJICAの発表を受け、公式に「JICAから撤回の報告を受けた」とのリリースを公表しました。市長や関係部署は当初、モザンビークとの海運・漁業分野での連携に期待を寄せていたものの、住民説明や受け入れ準備が十分に進んでいない段階で騒動化したため、市内での説明会や情報発信の必要性が生じました。
木更津市(千葉)
木更津市も認定自治体の一つで、ナイジェリアとの文化・スポーツ交流などを見込んでいました。SNS上の誤情報に対し市役所には市民からの問い合わせや抗議が届き、対応に追われたという報告がありました。市側はJICAと連携しつつ、今後の対応方針を協議しています。
三条市(新潟)
三条市では抗議や問い合わせが特に多く、役所の窓口業務に負担がかかったとされています。市側は「住民合意を得ていない」との声に対応するため、情報発信と住民説明を慎重に進める必要があると感じていた矢先の撤回発表となりました。
長井市(山形)
長井市はタンザニアとの文化・スポーツ、教育交流を想定していましたが、当初段階で計画が具体化していない状態にもかかわらず、誤解が拡大したことで市内の不安が高まり、行政の対処負担が増加しました。
各市とも、JICA側から「説明責任は主催者であるJICAが負う」という説明を受けており、撤回の報告を受けて関係自治体で事後対応を協議中です。
過去の類似事業との比較 — 教訓は何か
今回のケースは、国際協力・交流のあり方と国内の受け止め方のギャップが顕在化した典型例です。以下、過去の事例と比較して整理します。
1) JICAの従来事業(研修・協力隊等)との違い
従来のJICA事業(青年海外協力隊や技術協力プロジェクト、研修事業など)は、目的・期間・受け入れ体制が比較的明確に定められ、関係者への事前説明や制度的整備(ビザ手続きや受け入れ先の調整)が進んだ上で実施されてきました。一方、今回の“ホームタウン”は、認定という象徴性の高い措置と「ホームタウン」という名称が先に打ち出されたため、実務的な枠組みやルール説明が追いつかないままイメージだけが先行してしまいました。
2) 他の国際交流での“名称問題”の教訓
過去にもプロジェクト名やキャッチコピーが誤解を招き、住民から反発を受けた事例があります。名称は受け止め側の印象形成に大きく影響するため、政策設計段階での用語選定と、想定されうる誤解へのリスク評価が重要です。
3) 情報流通とSNS時代のリスク管理
今回、誤情報の拡散が撤回につながった点は特に重い教訓です。中央発信だけでなく、自治体レベルでの早期説明、現地政府や関係機関との連携確認、SNS上での誤情報に対する事実関係の即時発信など、迅速な広報体制が不可欠になっています。
今後の展望と論点
JICAは撤回と同時に、「国際交流自体は引き続き重要」との姿勢を示しており、名称や仕組みを見直した上での再構築の可能性にも言及しています。今後の焦点は以下の点です。
- 名称と制度設計の見直し — 誤解を生まない明確な言葉遣いと、認定・運営の透明性確保。
- 住民合意のプロセス強化 — 受け入れ自治体での事前説明や住民参加の仕組み作り。
- 誤情報対策の強化 — SNS時代に合わせた即時のファクトチェック体制と関係機関の協調。
- 実務レベルの合意形成 — ビザや受け入れルール、費用負担など運用面の実務合意を先行させる。
今回の撤回は一時的な後退に見えますが、国際交流をどう地域に根差して行っていくかという根本的な課題提起にもなりました。カカニュースでは、今後も関係自治体の動きやJICAの再設計の方向性を追い、住民説明の在り方や誤情報対策といった論点を掘り下げていきます。
(注)本記事はJICAの公式発表および各自治体の発表、主要報道をもとに作成しています。最新の公式発表や各自治体の更新を随時反映します。