厚生労働省は17日、アスベスト(石綿)による健康被害で2024年度に労災認定や給付金の対象となった人が勤務していた全国1257事業所を公表しました。驚くべきは、これが集計開始以降で「過去最多」を更新したという事実です。かつて「魔法の絶縁体」と重宝された建材が、数十年という長い眠りを経て、今まさに現役を引退した世代の命を脅かしています。
20年、30年経ってから「死の宣告」?潜伏期間という名の恐怖!
アスベストによる中皮腫や肺がんは、吸い込んでから発症するまでに20年から50年もの月日を要します。大手が報じる「1257事業所」という数字は、単なる統計ではなく、数十年前の現場で何の防護もなく働かされていた人たちが、今まさに病魔に襲われている現実を物語っています。
厚労省が「今後も増加傾向が続く」と予測しているのは、日本における石綿の消費ピークが1970年代から90年代にかけてだったからです。つまり、この「過去最多」という記録は、これから数十年続く地獄の入り口に過ぎないのかもしれません。
あなたの母校や近所も危ない?「周辺住民」まで公表対象に含まれる理由
厚労省がわざわざ事業所の名称と所在地を公表するのは、従業員だけでなく、その「周辺住民」に警鐘を鳴らすためです。過去には、クボタの旧神崎工場周辺で住民が次々と中皮腫を発症した「クボタショック」がありました。
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工場から飛散した微細な粉塵を、ただ近くに住んでいただけで吸い込んでしまった。
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父親が作業着に付けて帰ってきた石綿を、家族が洗濯の際に吸い込んでしまった。
今回の公表リストに掲載されたのは建設業や製造業が中心ですが、リストの中に「自分の実家の近く」や「昔通っていた工場」がないか、無関係を決め込むことはできません。これは労働問題を超えた、広域的な環境被害の告発状なのです。
名称公表の裏に潜む「風評被害」と「企業責任」のジレンマ!
新たに公表されたのは966事業所。これだけの数に及ぶ背景には、すでに倒産したり、名称を変えたりしている企業も少なくありません。大手が触れない視点として、「リストに載る=悪徳企業」というわけではないという複雑な事情があります。当時は石綿の危険性が十分に認識されておらず、法規制も緩かった時代です。
しかし、被害者にとっては「当時の常識」など何の関係もありません。企業側は、たとえ当時の経営者がいなくなっていても、歴史的な責任として補償に向き合う宿命を背負わされています。リスト公表は、企業にとって「過去の過ち」を突きつけられる、極めて重い社会的処罰の側面も持っています。
救済のハードルは高い?「心当たり」を「確信」に変える相談の重要性
厚労省や民間団体が電話相談窓口を設置するのは、石綿による疾患が「単なる高齢による病気」として見過ごされがちだからです。息切れや咳が、実は数十年前に吸った石綿が原因だったとしても、医師が職歴を深く聞き取らなければ労災には繋がりません。
「あの頃、工事現場の近くに住んでいた」「解体現場でバイトをしていた」といった些細な記憶が、残された家族を守る給付金へと繋がる唯一の糸口になります。
