高齢者の医療費負担が、大きな転換点を迎えようとしています。
厚生労働省は、70歳以上の高齢者が医療機関で支払う医療費の窓口負担について、「3割負担」となる対象者を拡大する方向で議論を本格化させました。
現役世代との「公平な負担」を実現するため、自民党と日本維新の会の連立合意でも明記されており、政府は年内にも具体的な方向性をまとめる方針です。
■現行制度ではどうなっているのか?
現在、日本の高齢者の医療費負担は、年齢や所得によって次のように区分されています。
| 年齢区分 | 所得条件 | 現行の窓口負担割合 | 該当者の目安 |
|---|---|---|---|
| 70~74歳 | 一般所得層 | 2割 | 年収が現役より少ない世帯 |
| 70~74歳 | 現役並み所得者 | 3割 | 年収が約370万円以上 |
| 75歳以上(後期高齢者) | 一般所得層 | 1割 | 多くの年金生活者 |
| 75歳以上(後期高齢者) | 現役並み所得者 | 3割 | 年収が単身383万円以上、複数人世帯で520万円以上 |
※厚生労働省資料より作成
■なぜ今、「3割負担」拡大が議論されているのか
医療費は高齢化と医療技術の高度化で年々膨らみ続けています。
一方で、現役世代の社会保険料や税負担も重くなっており、「高齢者も能力に応じて負担すべきでは」という声が政府内外で強まっています。
実際、後期高齢者の中でも給与所得や金融資産が増えている層が一定数存在しており、厚労省は「支払い能力のある高齢者には相応の負担を求めることが公平」と説明しています。
■「応能負担」の考え方とは?
今回の議論のキーワードは「応能負担」。
これは「支払い能力に応じて負担する」という考え方で、年齢ではなく所得に応じて負担を決める方向に見直すことを意味します。
日本維新の会は7月の参院選で「高齢者の窓口負担を原則3割に見直し、現役世代の社会保険料を年6万円引き下げる」と公約。
自民党の一部議員も同様に、「支払い余力のある高齢者にはより多く負担してもらうべき」と主張しています。
■社会保障審議会でも賛否両論
10月23日に行われた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)では、厚労省が提出した資料に基づき、今後の負担見直しについて議論が交わされました。
肯定的な意見としては、
「現役世代の負担を軽減することは、強い経済をつくるためにも重要」
といった声が上がる一方、
「一律に3割負担を広げるのではなく、生活実態をもっときめ細かく見る必要がある」
と慎重な意見もありました。
■今後のスケジュールと見通し
政府は2023年に策定した社会保障改革工程表で、「2028年度までに高齢者の3割負担基準を見直す」としていました。
しかし、自民・維新連立政権の誕生によって、議論が前倒しで年内に方向性が出る可能性が高まっています。
さらに、維新が提案している「OTC医薬品(市販薬)の保険適用見直し」なども含め、年末までに医療保険制度全体の見直しが進められる見通しです。
■「公平」と「安心」は両立できるのか
医療制度の改革は、「高齢者いじめ」や「現役世代の負担押しつけ」といった感情論を呼びやすいテーマです。
しかし、医療費の総額が膨張を続ける中で、「どこかが我慢すればよい」ではなく、「支払い能力に応じて支え合う仕組み」へと変える必要があります。
一方で、低所得の高齢者に過度な負担が生じれば、通院控えや健康悪化につながるおそれも。
「公平」と「安心」を両立できるバランスを、政治と行政がどう設計するかが焦点です。

