高市首相の国会答弁をきっかけに、中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけました。インバウンド需要で大きな存在感を持つ中国市場だけに、日本国内では景気への影響を懸念する声が広がっています。
しかし、政治的対立が経済分野に波及するのは今回が初めてではありません。サーモン輸入制限、K-POPイベント中止、レアアース規制……各国が過去に経験してきた中国の“制裁”の歴史を振り返ると、日本がいつまでも中国リスクに振り回され続ける構造が浮き彫りになります。
カカニュースは今回の問題を多角的に検証し、今後日本が取るべき道を探りました。
中国の渡航自粛要請が突きつけた現実
中国政府は、高市首相の台湾有事に関する国会答弁へ反発し、日本への渡航自粛を呼びかけました。インバウンド市場における中国の影響力は圧倒的です。
- 訪日外国人3554万人(1~10月)のうち、中国人は820万人で23%
- 旅行消費額は1兆7265億円で全体の21.2%
第一生命経済研究所の嶌峰義清氏は、国内消費が弱い現状では「無視できない影響」と分析しています。日本経済の“外需依存の脆弱さ”が露わになった形です。
中国はなぜ経済圧力を行使するのか
嶌峰氏によると、中国が他国に経済的圧力をかける“地雷”は主に以下の3つです。
- 領土・安全保障問題
- 民主化・人権問題
- 台湾問題
このうち、②と③は中国特有のセンシティブ領域で、国内の政治状況や不満のガス抜きとして利用されるケースもあります。今回の渡航自粛もまさにこの構図に当てはまると専門家は指摘しています。
世界が経験してきた“中国制裁”の歴史
中国が政治対立を背景に貿易・文化領域へ制裁を加えた例は複数あります。
● ノルウェー(2010年)
ノーベル平和賞を人権活動家へ授与したことに反発し、
- サーモン輸入停止・検疫強化を実施しました。
- シェアは90% → 1%に激減しました。
● 韓国(2016年)
THAAD配備を受けて、
- K-POPイベント中止
- 韓国ドラマ放送延期など文化制裁を発動しました。
● 日本(2010年)
尖閣諸島沖衝突事件を受け、
- レアアース輸出を事実上停止しました。
今回の日本への渡航自粛も、これらと同じ“政治×経済”の制裁ロジックで発動されたものといえます。
追加制裁はあるのか?
専門家は次のような追加措置の可能性を指摘しています。
- レアアースの再規制
- 日系企業への行政手続き厳格化
- 中国市場での日本製品の締め付け
特にレアアースは製造業の生命線であり、もし制限されれば日本経済の影響は無視できない規模になります。
対中依存をどう減らすか
嶌峰氏は「中長期的に対中依存度を下げることが不可欠」と指摘しています。具体的には、
- 調達先の多角化(アセアン・インド・欧州)
- インバウンドの顧客構成転換
- 半導体・電池などのサプライチェーンの再構築
すでに観光業では、コロナ禍を機に中国依存を減らす取り組みが進んでいます。
● ホテル業界の変化
ベルーナが運営するホテルでは、
- 中国人客:2.4%
- 日本人客:62.1%
欧米個人客が増加し、安定した需要へと転換しつつあります。
● 奈良の商店街の声
奈良の土産物店では、
- 「影響はない」
- 「日本人客がむしろ増えた」
との声もあり、観光業の構造転換が一定の成果を見せています。
【総括】――“中国リスク時代”に日本が取るべき道
中国リスクは今後も消えることはありません。政治的緊張が高まるたびに、
- 渡航制限
- 貿易制裁
- 文化制限
などが繰り返される可能性があります。
一方で、日本経済はインバウンドや貿易を通じて中国と深く関わり続けており、完全なデカップリングは現実的ではありません。
だからこそ日本が目指すべきは、
「依存はするが、振り回されない」体制づくり
です。調達・市場・観光のあらゆる分野で多角化を進め、特定国への過度な依存を避けることが、これからの日本経済の安定に不可欠です。
カカニュースは今後も、中国リスクの最新動向と日本経済への影響を追っていきます。

