2025年1月、日本国内からジャイアントパンダの姿が消える可能性が高まっています。上野動物園(東京都台東区)で飼育されている2頭のパンダが中国へ返還されることが正式に発表され、さらに新たな貸与の見通しが立っていないためです。背景には、日中関係の悪化と、中国がパンダを「外交カード」として扱ってきた歴史があります。
■ 上野動物園のパンダが中国へ返還
今回返還が発表されたのは、上野動物園で飼育されているジャイアントパンダ2頭です。来年1月には返還期限を迎え、日本国内でパンダを見られる動物園がゼロになる見通しとなっています。
和歌山県のアドベンチャーワールドでも、すでに複数のパンダが中国へ返還されることが決まっており、「パンダ大国・日本」とも言われた時代は終わりを迎えつつあります。
■ 新規貸与に暗雲 中国側は沈黙
本来であれば、返還と同時に新たなパンダが貸与されるケースも少なくありません。しかし、今回は状況が異なります。
中国外務省の郭嘉昆副報道局長は、パンダ返還に関する質問に対し「主管部門に聞いてほしい」と述べるにとどまり、明確な方針を示していません。以前の記者会見では、日中共同のパンダ保護事業を評価するなど前向きな姿勢を見せていただけに、今回の態度は「後退」と受け止められています。
■ 背景にある日中関係の悪化
専門家が指摘する最大の要因は、日中関係の冷え込みです。とくに、高市早苗首相による台湾有事をめぐる発言以降、中国側は日本に対して厳しい姿勢を強めています。
中国の官製メディアでは、日本がパンダを失うのは「高市首相の責任だ」とする専門家の見解も紹介されており、両国間に「健全な政治的雰囲気」が戻らない限り、新たな貸与は難しいとの見方が広がっています。
■ パンダは「国宝」そして外交カード
中国にとってパンダは単なる動物ではありません。「国宝」と位置付けられ、長年にわたり外交ツールとして活用されてきました。
実際、パンダの貸与は首脳外交と密接に連動しています。最近では、フランスのマクロン大統領の訪中に合わせて、2027年に2頭を貸し出すことが発表されました。アメリカでも一時はパンダがゼロになる可能性が指摘されましたが、習近平国家主席の訪米を機に保護協力が再確認され、翌年には4頭が到着しています。
つまり、中国との関係が良好な国にはパンダが贈られ、関係が悪化すれば姿を消す――それが現実なのです。
■ 日本とパンダの歴史
日本に初めてパンダがやって来たのは1972年。日本が台湾と断交し、中華人民共和国を「中国唯一の合法政府」と認めた日中国交正常化がきっかけでした。
パンダは日中友好の象徴として親しまれ、多くの日本人に愛されてきました。しかし現在、その原点とも言える台湾問題をめぐり、再び日中関係は緊張状態にあります。
■ 「パンダロス」はいつまで続くのか
中国当局は、今後の日本への貸与方針について明言していませんが、中国の研究者からは「両国の緊張が続く限り、新たな貸与はない」との厳しい見方が相次いでいます。
首脳間の対話が進み、関係修復が実現しない限り、日本で再びパンダを見られる日は遠のく可能性があります。
■ 動物を超えた存在
かわいらしい姿で人々を癒やしてきたパンダですが、その裏には国際政治の現実があります。今回の「パンダ不在」は、日中関係の現状を象徴する出来事とも言えるでしょう。
果たして、日本に再びパンダが戻る日は来るのか。今後の外交の行方が注目されています。
