友好のシンボルが国内から消える、日中関係悪化も影響か
東京・上野動物園で多くの人々に愛されてきた双子のジャイアントパンダ、雄のシャオシャオと雌のレイレイが、2026年1月下旬に中国へ返還されることが、2025年12月15日、関係者への取材で明らかになりました。この返還により、国内で飼育されるジャイアントパンダは一時的に約50年ぶりにゼロとなる見通しとなり、市民に親しまれた「友好のシンボル」が国内から姿を消すことになります。
都によると、双子の最終観覧日は1月25日に設定される見込みです。返還期限は来年2月に迫っており、彼らは繁殖研究目的で貸与された親から生まれたため、所有権は中国にあります。このため、期限内の返還は避けられない措置でした。
わずか数カ月で激変した国内パンダ事情
今回の双子パンダの返還は、国内のパンダ飼育状況が急速に変化した流れの中で起こりました。今年6月には、和歌山県の「アドベンチャーワールド」で飼育されていた4頭のパンダがすでに中国に返還されており、国内で飼育されているパンダは、この時点で上野動物園のシャオシャオとレイレイの双子だけとなっていました。
そして、この双子も返還されることにより、日本の主要な動物園からジャイアントパンダが完全に不在という、1972年の日中国交正常化以来、実に約50年間で初めての事態を迎えます。
政治的背景:日中関係悪化が新たな貸与を阻む懸念
今回の返還は契約上の期限によるものですが、問題は「新たな貸与」の見通しが立たないことです。
報道では、台湾有事に関する高市早苗首相(当時)の発言を機に日中関係が悪化していることが言及されています。ジャイアントパンダは、中国が友好国に貸与する「パンダ外交」という戦略的な外交ツールであり、両国間の友好関係のバロメーターとも言えます。政治的な緊張が高まっている現状では、中国政府が日本への新規のパンダ貸与や、既存のパンダの貸与期間延長に慎重になる可能性が高く、日本の「パンダ不在」期間が長期化する懸念があります。
パンダは、両国の国民感情を繋ぐ「ソフトパワー」の象徴であり、パンダの不在は、民間レベルでの交流の熱意や好意的な関心を冷ます要因になりかねません。このため、政府や動物園関係者は、水面下で中国側との継続的な対話と新たな貸与に向けた交渉を進めることが急務となっています。
上野動物園とパンダの半世紀の歴史
上野動物園とジャイアントパンダの歴史は、1972年の日中国交正常化時に、カンカンとランランが来日したことに始まります。その後、様々なパンダが来日し、日本の多くの人々に愛されてきました。
しかし、2008年に雄のリンリンが亡くなった後、上野動物園では一時的にパンダの一般公開が途絶えるという空白期間がありました。
この空白を埋める形で、東日本大震災直前の2011年2月に、雄のリーリーと雌のシンシンが中国から来日しました。彼らは、日本の復興への希望の光となり、その後の上野動物園のパンダ飼育の中心となりました。
誕生した「日本の宝」たち
リーリーとシンシンの間からは、3頭の子どもたちが誕生し、国民的な人気を博しました。
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シャンシャン(2017年生まれ):その愛らしい姿で社会現象を巻き起こしましたが、2023年2月に惜しまれつつ中国へ返還されました。
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シャオシャオ(2021年生まれ):双子の雄。
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レイレイ(2021年生まれ):双子の雌。
今回返還されるシャオシャオとレイレイは、2021年の誕生時にも大きな話題となり、特に双子ということで、日本の多くの市民に喜びと癒やしを提供してきました。彼らの存在は、困難な時代においても、日中友好の確かな証として機能してきました。
今後の課題:繁殖研究の継続と国民の期待
双子パンダの返還により、日本国内でのパンダの繁殖研究も一時的に停滞することになります。ジャイアントパンダは絶滅危惧種であり、その種の保存と繁殖技術の向上は、国際的な責務です。今後、日本が再びパンダの飼育を再開する際には、この繁殖研究への貢献が、中国側との交渉における重要な要素となるでしょう。
また、パンダ不在期間中、多くの国民が抱く「パンダロス」の感情をどう受け止めるかも課題となります。上野動物園をはじめとする日本の動物園は、パンダ以外の動物の魅力を発信することに加え、中国側の研究機関との交流プログラムなどを通じて、「パンダ外交」の火を消さない努力が求められます。
高市官房長官(当時の報道ではまだ官房長官)が先日、「パンダを通じた交流の継続を期待している」と述べたように、政府レベルでもこの交流が国民感情の改善に果たす役割を重視しています。
上野の双子のパンダが中国で元気に過ごし、将来的に再び日本に「新しいパンダ」がやってくることを願いながら、国民は1月25日の最終観覧日を迎えることになります。

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