中国海軍の戦闘機が航空自衛隊F15戦闘機に対してレーダー照射を行ったと防衛省が発表し、日本国内に大きな衝撃が走っています。これは戦闘行為における“攻撃前の行動”とも受け取られかねない極めて危険な行為であり、過去にも中国海軍艦艇が自衛隊護衛艦に射撃管制レーダーを照射した事件(2013年)を思い出す声も少なくありません。
しかし今回、中国側はすぐに「事実と異なる」と反論し、日中双方の主張が正面から食い違う展開となっています。この記事では、今回のレーダー照射問題の背景、双方の主張の食い違い、日本の安全保障に与える影響、そして過去との比較から見える“緊張感の質”について、分かりやすく紹介していきます。
■今回の「レーダー照射」とは何が起きたのか
防衛省が発表した内容によると、事案が起きたのは 沖縄本島の南東、公海上空。
中国海軍の空母「遼寧」から発艦したJ15戦闘機が、領空侵犯のおそれに備えてスクランブル発進した航空自衛隊のF15戦闘機に対し、断続的にレーダーを照射したとされています。
レーダー照射とは、射撃のために標的を捕捉・追尾する際に使う“射撃管制レーダー(FCR)”の照射を指すのが一般的です。
これを受けた側は「攻撃の準備行動」と判断するため、極めて危険で軍事的緊張を一気に高める行為とされています。
防衛省は、照射が「断続的に行われた」と説明。
F15側に損傷はないとしつつも、強い懸念を示しています。
■中国側は「事前に訓練を公表していた」「妨害したのは日本」と主張
これに対し、中国海軍の報道官は談話を発表し、「日本の発表は事実と異なる」と強く反論しました。
その主張は以下の通りです。
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中国側は 訓練海域・空域を事前に公表していた
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自衛隊機がその訓練空域に「何度も接近し、妨害した」
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日本側の行動が「中国の正常な訓練に深刻な影響を与えた」
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日本は「中傷をやめるべきだ」と要求
つまり中国側は、
「訓練区域に日本の戦闘機が入り込んできたため、正当な対処をしただけ」
と主張している形です。
■日中の言い分が真っ向から対立する理由
今回の問題では、双方の発表内容に明らかなズレがあります。
日中の軍事接触ではしばしば起きる構図ですが、なぜこのように対立するのでしょうか。
①「訓練区域」の解釈の違い
中国は毎年、沖縄や台湾周辺で広い空域を訓練区域として設定します。
公海上空であっても訓練区域を宣言すれば「注意してほしい」という意味を持ちますが、その空域が中国領空になるわけではありません。
公海・公空であれば、自衛隊機が近づくことを法的に止めることはできません。
つまり、日本側からすれば
「中国がどんな訓練区域を設定しようとも、公空での監視は当然」
という認識です。
②お互いの“警戒行動”が緊張を生む
自衛隊は、中国軍機が沖縄周辺に接近すれば当然スクランブルします。
一方中国側は、自衛隊機が自分たちの訓練に近づけば「妨害」と判断します。
お互いに「正当な行動」だと思っているため、主張が平行線になるのです。
③政治的メッセージとしての反論
中国は国内向け・国際社会向けに「日本が挑発している」という姿勢を示したい意図があります。
一方、日本は「国際ルールに則り監視行動をしただけ」と説明する立場で、これも譲れません。
■過去の“レーダー照射問題”との比較
2013年、中国海軍艦艇が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制レーダーを照射した問題がありました。
当時も中国は当初否定しましたが、その後も事実関係は曖昧なまま国際的な批判を招きました。
今回も構図は似ていますが、大きな違いがあります。
●今回は「海」ではなく「空」で発生
戦闘機同士は距離が近づきやすく、接触リスクが高いです。
冷戦期にも米ソ機が“ニアミス”を繰り返し事故が多発しました。
●空母「遼寧」の活動が日本周辺で常態化
訓練の規模が以前より大きくなっており、
“いつ偶発的事故が起きてもおかしくない状態”が常態化しつつあります。
■自衛隊F15に危険はあったのか?
防衛省の発表が事実であれば、F15は確かに危険な状況に置かれたことになります。
射撃管制レーダーはミサイル発射の直前に使われるものであり、
たとえ攻撃意図がなくても“誤解による撃ち合い”の可能性がゼロではありません。
特にF15は老朽化が進んでおり、近年は近代化改修が急がれています。
南西諸島周辺でのスクランブルが増え、パイロットの負担も大きいことから、
現場の緊張は極めて高いといえます。
■今回の事案が示す「日中関係の新たな段階」
今回の問題は「単なるレーダー照射事件」だけではなく、
日中の軍事接触が“質的に変わりつつある”ことを示す象徴的な事案でもあります。
●中国の訓練が“沖縄のすぐそば”に迫っている
空母「遼寧」や「山東」が日本近海で訓練を行う機会は明らかに増えています。
日本の監視行動と中国の訓練行動が物理的に近づけば、
摩擦は必然的に増えます。
●双方の“メンツ”も対立を深める
中国は「自国の訓練を妨害された」という形で主張を強め、
日本は「国際法上当然の監視」として譲らない。
政治的対立が後押しされ、軍事現場のリスクが上がります。
■まとめ:危険な“偶発的衝突”をどう避けるか
今回のレーダー照射疑惑は、日中双方がそれぞれの“大義”を掲げているため、簡単には収束しない構図です。
しかし、ひとつ確実にいえるのは──
現場のパイロットが最もリスクを背負っているということです。
偶発的な衝突が戦争を招く例は、歴史上何度もありました。
だからこそ、
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ホットラインの活用
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接近時の共通ルール策定
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訓練区域の運用改善
など、政治レベルの調整がますます重要になります。
今後も防衛省や各国の発表、そして国際社会の反応に注目が集まりそうです。


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