警視庁内部で「まさか自分たちの中に裏切り者がいるとは」と衝撃が走りました。
暴力団対策課の警部補が、犯罪グループ「トクリュウ(匿名流動型犯罪グループ)」のメンバーに捜査情報を漏らしていた疑いで逮捕されたのです。
逮捕されたのは、警視庁暴力団対策課所属の神保大輔容疑者(43)。
捜査関係者によると、神保容疑者はトクリュウの中でも国内最大規模のスカウトグループ「ナチュラル」の関係者に、警察の捜査情報を流していたとされています。
この事件は、単なる情報漏洩では終わりません。
「取り締まる側」と「取り締まられる側」が密接に結びついていた可能性が浮上しており、警察内部の信頼を大きく揺るがす事態となっています。
■“トクリュウ”とは?匿名・流動型で姿を消す新型犯罪グループ
「トクリュウ」とは、“匿名流動型犯罪グループ”の略称です。
SNSや闇バイトを通じて集まった個人が、一時的に犯罪行為を行っては解散し、次の犯行ではまた別のメンバーが加わるという流動的な構造を持ちます。
このため、特定の組織構造を持たず、警察の追跡を逃れやすいのが特徴です。
一見つながりの薄い個人が、匿名のチャットアプリなどを通じて緩やかに連携し、犯罪の「ノウハウ」や「逃走経路」などの情報を共有する――。
その中心に位置しているとされるのが、スカウト業界を母体とする「ナチュラル」というグループです。
■「ナチュラル」とは何者か?スカウト界の“頂点”が持つ闇
「ナチュラル」は、東京都や千葉県を中心に活動するスカウト集団で、ホストクラブやキャバクラなどへの人材紹介を行うとされます。
しかしその実態は、違法スカウトや性的搾取、さらには薬物や闇金融との関係まで指摘されており、警視庁・千葉県警など複数の捜査機関が継続的にマークしてきました。
ナチュラルは自前のアプリ「Chat Alpha(チャットアルファ)」を使ってメンバー間で情報を共有していたことが、過去の取材で明らかになっています。
このアプリは一見ニュースアプリのようなデザインですが、実際には「家宅捜索の予定」「逮捕時の対応マニュアル」「捜査状況のリーク情報」など、極めて機密性の高い情報が書き込まれていたといいます。
実際に2025年7月、千葉県内の複数店舗に対して行われた家宅捜索の情報が、事前にアプリ内で共有されていたことがフジテレビの取材で判明。
「7月13日か14日に千葉の4〜5店舗でガサが入る」との書き込みがあり、その後、実際に千葉県警が捜索を行ったのです。
警察関係者の中では、「内部から情報が漏れているのではないか?」という疑念がすでにこの時点で生まれていました。
■「じっこんの仲になっているやつがいるはずだ」――警察内で囁かれた不信
事件の発端は、2025年初頭に行われたある捜査でした。
ナチュラルの主要メンバーを検挙する直前、突然ターゲットが姿を消したのです。
この不可解なタイミングに、捜査員の間では不信の声が上がりました。
「こんなタイミングで逃げられるなんて……絶対に情報を漏らしている奴がいる」
「じっこん(深い仲)になっているやつがいるはずだ」
こうしたやりとりが内部で飛び交い、春ごろから神保容疑者に対する内偵捜査が始まったとみられます。
神保容疑者はナチュラルの捜査経験があり、関係者と接点を持っていたとされます。
一部では「捜査協力者との私的関係が深まり、そこから情報を引き出された可能性もある」との見方もあります。
■流出したのは「カメラ画像」? 警察の機密がアプリに転送されていた疑い
警視庁によると、神保容疑者はナチュラル側が使うアプリを通じて、捜査のために設置していたカメラの画像を送信していた疑いがあるといいます。
どのタイミングで、どのような目的で送信されたのかは現時点では明らかになっていませんが、もし事実ならば極めて深刻な情報漏洩です。
警察関係者は「捜査現場の映像が犯罪側に流れていたとすれば、捜査員の安全にも関わる」と懸念を示しています。
また、トクリュウのような匿名型犯罪グループにとって、内部情報は“金”と同等の価値を持つとも言われています。
つまり、神保容疑者の行為が金銭目的であったのか、あるいは人間関係によるものだったのかが、今後の焦点となります。
■警視庁「全捜査員への裏切り行為で許せない」 再発防止へ体制強化
この事件を受け、警視庁は内部に激震が走っています。
警察内部では「信頼の根幹を揺るがす行為」「全捜査員への裏切り」との声が相次いでおり、10月には「特別捜査課」を新設して、トクリュウ関連事件の分析や追跡を強化したばかりでした。
まさにその矢先に起きた事件であり、組織としての信用を大きく損なう結果となっています。
ある捜査幹部は、「本当にガッカリという言葉でしかない」と語り、
「今回の件で、情報の管理体制を根本から見直す必要がある」と強調しました。
警視庁キャップの山下高志記者も、「取り締まる側の人間が逆にトクリュウに取り込まれていた形。今後は情報の扱いがより厳しく問われる」とコメントしています。
■なぜ“警察内部の裏切り”は起こったのか?
専門家の中には、今回の事件を「氷山の一角」と見る声もあります。
近年、警察官の個人スマホ利用や副業規制の緩和などで、外部との接点が増えたことが背景にあるとされます。
また、SNS世代の警察官が増えるなか、「情報リテラシー」と「倫理教育」が追いついていないという指摘も。
一方で、トクリュウのような“顔の見えない組織”は、従来の暴力団以上に警察への潜入や情報収集が容易だとも言われています。
彼らは一見普通の市民を装い、情報を引き出すために巧妙な人間関係を築く。
今回の事件は、そうした新時代の犯罪構造に、警察の旧来型組織がいかに脆弱であるかを示したともいえるでしょう。
■今後の焦点と波紋
今後の捜査では、神保容疑者がどの程度の情報を漏洩していたのか、金銭授受があったのか、また同様の行為をしていた警察関係者が他にいないかが焦点となります。
トクリュウやナチュラルのような組織は、匿名性とデジタル技術を武器に拡大を続けており、警察の対策は後手に回っている印象も拭えません。
「絶対に情報を漏らしている奴がいる」――その疑念が、現実となってしまった今回の事件。
警察組織は、再び信頼を取り戻せるのか。
そして“顔なき犯罪グループ”に対抗する術を、本当に持ち合わせているのか。
この問いの答えが見えるのは、もう少し先になりそうです。


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